第12話 サラとの約束
「そろそろ起きて。今日はいい天気よ」
「まだ眠いよ、ママ」
「あらあら。素敵な夢を見ていたのね。シュウはパンを食べているけれど、リンも同じ物でいいかしら?」
「……シ……ま?」
眠い目を擦り、なんとか薄く開けた。カーテンの隙間から朝日が差して、キラキラしている。
「おはよう、リン」
「……おはよう、サラ」
ベッドの脇へ腰かけ、やさしく頭を撫でてくれたのは美しいサラだった。
「ごめん、ちょっとだけ……ホントに少しだけ、サラの声はママに似ているの」
「良いのよ、ここでは私がリンとシュウのママ代わりなんだから」
「ありがとう」
「昨日の約束、覚えてる?」
「もちろん」
リンは胸に下げたネックレスをぎゅっと握った。
このネックレスは、中心部分で人を見ると、その人の善悪の玉の配分を見る事が出来るという魔法道具だ。
シュウの善悪の玉の悪が強く勝ってしまうと魔王になる確率が上がるらしい。リンはこのネックレスでシュウが魔王になってしまわないように見張る事にした。
サラの話では、シュウは魔王になる可能性が高いだけで確定ではないらしい。でも、チョウ達の話だと魔王を倒さないとリンとシュウはママの元へ帰れない。どうすれば良いのかと頭を悩ませているうちに、昨日は眠ってしまっていたらしい。
ぐっすり眠ったので頭がクリアになった気がする。
二人で昨日決めた事はこの話を二人以外には言わないという事だ。
シーマやマチルダにも、もちろんチョウにもだ。
シーマは自分のミスを悔いる事になるかもしれないし、特にチョウに知られると、何をするかわからないらしい。
もしかしたら恐ろしい事をされるかもしれない。それは避けたい。
シュウが魔王になる事は避けたい。でも、もしもシュウが魔王になった場合はリンが勇者になるらしい。そうなった場合の為に、リンはサラと魔法の修行を行う事になった。何か理由を付けてマチルダに剣技も仕込んでもらうつもりでもある。
「話したい事はまだあるんだけど、何事もお腹が空いてちゃダメ。ユーリ特製焼き立てパンとスープ、食べたい人?」
「はい!」
倫は元気よく返事した。
ユーリの家事スキルの上達は素晴らしく、子守りと料理のテクニックが凄かった。エミリオもシュウもユーリが大好きだ。
ママは『人間の食事回数は決まってるのだから、美味しいものを食べるべき。お腹が空くと不幸な気持ちになるからとりあえず食べなさい』と言っていた。
食べる事は生きる事だ。倫は、この世界で生きなければならない。泣いても喚いてもその事実は変わらないのだ。
階段を降りるとコンソメスープの匂いがする。卵がひらひら泳ぐコンソメスープはリンの好物の一つで、ユーリが一番最初に覚えた料理でもある。作り方を教えたのはリンだけど、今ではユーリの方が手際が良い。これは慣れなので仕方がない。
目の前に置かれたほかほかしたパンとスープにかぶりつくと、思った通りの美味しさだ。ユーリはエミリオにどろどろにしたパン粥を与えながら、愁がパンを食べながら時々ちぎって投げるのを阻止している。まるでママのような手際の良さだ。
「ユーリ凄いね」
「何がだ?」
「エミリオとシュウの世話上手じゃん」
「二人共いい子だよな。獣人って子供いっぱい産むんだよ。だから動けるやつが世話しなきゃ回んないから」
「ふうん?じゃあユーリもお兄ちゃんとか妹とかいるの?」
「えーっと……」
ユーリはゆっくりと一人一人の名を呼びながら指を折る。
「俺は、六人一緒に生まれたよ」
「むつご?!すご!」
双子以上の人に会った事が無かったのでテンションが上がった。食べ終わったお皿を下げながらサラが口を開いた。
「ユーリは犬系の獣人だものね」
「獣人の種類によって、赤ちゃんの数違うの?」
「そうね、でも基本的に人間より多く生まれる事が多いわ。もちろん、一人しか産まない事もあるけどね」
「じゃあ賑やかでいいね!」
「そうね。さあ、兄さんが来ちゃうからそろそろ食べちゃいましょうか」
どろどろのパン粥を食べ終えたエミリオをユーリから受け取ると、口元を拭った。
その様子を見ているシュウが、どこか羨ましそうにしている気がした。
もしかしたら、シュウもとても我慢しているのかもしれないと思うとリンの小さな胸も痛んだ。
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