第9話 スキルをやっと見られます!

 とてとてと、伝説の剣を引き摺りながらシュウが楽しそうな声をあげている。いつもならマチルダが両手を伸ばすと『抱っこ抱っこ』と近づいてくるのに、今は気分が乗らないのか逃げ回っているようだ。困り顔でマチルダが追いかけている。


「やー!やー!」


 嫌とは言っているが楽しそうである。

 騒がしくしていたからか、サラが起床したエミリオを連れてリビングへと降りて来た。


「兄さま、お手紙が来ましたよ」

 

 サラはが指さした方向を見ると、小さな光が飛んできた。光は窓をコンコンと叩く。

「おやおや……これはチョウ様からの……?」

 窓を開けると小さな光が鳥の形をしている事に気付いた。シーマの手の上に鳥がちょこんと載ると、鳥は姿を変えて洋紙になった。

「うわ……魔法だ……」

 少し感動しているリンの横で、シーマが明らかに表情を曇らせていく。心配したサラがひょいと手紙を覗き込んだ。

「なになに?どうしたの?」

「チョウ様からね、これから何をするべきかっていう指令が出たのよ」

「指令……!」

 ちょっと面白そうな響きである。何やら考え込むシーマに代わってサラが説明をはじめた。

「チョウ様が調べたところ、魔王が出現するまでまだ十年くらいあるみたい。だからそれまでに魔王に対抗するような武器や、仲間を募り、勇者を育ててレベルを上げよって書いてあるわよ」

「ちょ、ちょっと待って!?十年?!十年って言った?!」

「ええ、十年って言ったけど……」

「じゃあ、私十年ママに会えないの?!」

 リンが目に涙をためはじめる。リンが泣くと、それにつられるようにシュウも泣いてしまう。慌ててマチルダはスライムおしゃぶり試作品をシュウの口元にもっていった。泣きかけたシュウをちゅぱりで誤魔化す事に成功する。

「リン、きっと何か道があるはずよ」

「サラ……」

 泣き声をあげることなく、涙が頬を伝っている。ユーリがハンカチを貸してくれた。

「まずは出来る事をしましょう。えっと、伝説の剣はもう手に入れたから良いし、あとは仲間ね。チョウ様の調べによると、勇者、格闘家、魔法師、賢者、シーフあたりをそろえると良いってなってるけど……」

 仲間集めなんてゲームの序盤で楽しいやつなんだけど……。

 サラとリンは周囲を見渡した。勇者(予定)のシュウ、格闘に長けたマチルダ、一番の魔法師シーマ、元盗人ユーリ。

「ほぼ揃ってるね」

「というか、全部揃ってる」

 シーマの声がした。

「サラはシスターの資格も持っていて回復も攻撃も出来る魔法のエキスパートだ」

「ええ!?そうなの?サラすごい!」

「今は私が一番の魔法師だが、私の前はサラが一番だったんだ」

 キラキラと尊敬の瞳でサラを見る。サラは少し恥ずかしそうに困った顔をした。

「どうして?サラが引退したって事?」

「ああ、エミリオを育てるために引退しその後を二番手だった私が引き継いだんだ」

「そんな言い方……兄さまも十分に優秀な魔法師じゃない」

 シーマはサラの言葉に返事をしなかった。

「ああそうだ。そういえばシュウ様もリン様もスキルが判明していなかったですよね」

「スキル?」

「あら、本当ね。自分の向いている仕事や、魔力があるなら向いている属性が分かる仕組みの事よ」

 やっと来た異世界的な話に、リンの涙はすっかり引っ込んだ。

「教会に行くか、資格を持つ者が見られるの。もちろん個人情報は守られるから、その人のスキルが見られるのは本人と見る資格持ちだけよ」

「じゃあ、教会に行けばいいの?!」

「ふふふ。さっき兄さまが言ったでしょ?シスターの資格を私が持ってるって」

「と、言う事は……?」

「私がスキル見られるのよ」

「サラすごーい!見て欲しい!」

「ついでに占いも見てあげるわね」

「やったー!って占い?」

「サラは売れっ子の占い師でもあったんだ。本当に多芸で優秀な妹を持つと、兄は大変なんだよなあ」

 シスターの資格を持つ者は占う事も出来るらしい。自分に向いている職業が分かるなんて面白いし、もしかしたら魔法を使えるようになるかもしれない。

 様々な可能性に、リンの心は躍った。



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