第11話 シュウの正体

「リン、落ち着いて聞いてね。まず、ここじゃない世界から人を呼び寄せる魔法はとても難しいの。大昔、魔王が君臨していた時代には、多くの力ある魔法使いが違う世界から勇者を呼んだらしいのだけど。その魔法は見事魔王を倒した後から徐々に忘れ去られていった」

「う、うん」

「チョウ様が勇者を呼べと言う命を始めに受けたのは私なの。〔勇者〕という単語を入れこむと、魔法の発動がどうしてもうまくいかなかった。じゃあ他の言葉で言い換えればいいんじゃないかってところまでは私が研究したの。でも、色々あって、エミリオを育てる事になって……魔法師のトップの椅子と共に、ミッションも兄様に引き継いだわ」

「そうなんだ」

「それで兄さんがどうやって呼び出したかのメモを見つけたんだけど〔魔王に匹敵する力を持つ者〕って書いてあったの」

「勇者って単語をそう言い換えたんだね」

 感心するリンの前で、サラの顔が曇る。

「それでね、兄様はちょっと抜けている事があるじゃない?嫌な予感がしていたんだけど……」

「いやな予感?」

「魔王に匹敵する力を持つ者って、勇者以外にもいるかもしれないじゃない?……例えば魔王とか」

「ええ!?……ど、どういう事?!」

「実際にどんな風に呼び出したかの呪文を聞いていないから確定ではないのだけれど……このステータス表のこの部分を見て?」

 丸い球体が浮かんでいて、その中には光る水と暗い水が半々くらいに入っていた。リンにも同じようなものがあった気がする。そこには『善悪』と書いてあった。

「善悪?」

「その人が善人か悪人かの割合を表す部分よ。シュウの場合は今は半々。ここにある長い注釈を読んだ結果……シュウは魔王になりえる存在みたいなの」

「ええー!?ま、魔王?!」

「まおーまおー!」

 きゃっきゃっと膝の上のシュウは喜んでいるが、リンの表情は暗い。

「それでね、さっきのリンのステータス画面にあったあのマーク。あれ、やっぱり勇者のマークなのよ」

「勇者?どういう事?」

「だから、これは私の予想なんだけど……シュウが魔王になってしまったら、リンが勇者になるってことだと思うのよね」

「――はい?!」

「たーい!」

 リンの反応が遊んでいるように見えるのか、シュウはご機嫌に手を叩いて喜んでいた。


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