第5話
「そ、その魔法使いって何ですか?」
「魔法使いは
「私たちの」
「僕たちの」
「主様」
「帰ってくるのはいつぶりだろう」
妖精たちはこれまたダブりのない声で返してくる。
それにしても、言っていることが分かりそうで分からない。
「私がその魔法使いってこと?」
「扉を開けた」
「扉が開いた」
「だからそう」
「そうだといいな」
「もう待ち続けるのは嫌だよ」
期待に胸をふくらませている妖精たちには悪いが、エミリアは魔法など使えた試しがない。
だって母も魔法など使っていたわけもないし、ネノクニには魔法を使っている人などいなかった。
「じゃ、じゃあどうして私をここに連れてきたの」
「連れてきた?」
「違うよ」
「ついてこれたんだよ」
「もし違うのなら」
「この扉は開けられない」
またしても分からない。もっとわかるように説明してほしいところだ。
「それなら私のお母さん……アルビアの石化を解くことはできる?」
「アルビア」
「元気?」
「今何しているの」
「石化は解くと時が進む」
「アルビア、危険」
「ちょっと待って、お母さんが危険ってどういうこと」
妖精の最後の言葉に驚きを隠せず、思わず聞き返してしまう。
「石化は時を止める」
「解くと時が進む」
「時が進めば呪いが進む」
「アルビア耐えられない」
「だから解かない」
妖精たちの話をまとめるとこうだ。
母であるアルビアは、魔法使いと呼ばれる妖精の力を借りられる人間であった。
その力を使って彼らと扉を通りいろんな世界を旅していたが、とある世界で呪いを受けてしまった。
妖精たちは呪いを留める為にアルビアに石化をかけた。
けれど呪いは強く旅をするのが難しくなり、悪い王に絶対に見つからないであろう世界――ネノクニ――へと渡ったのだそうだ。
けれども魔法の無い世界には魔法そのもののような妖精も長くとどまれない。だから母とは別れたとか。
(うん。見事に現実味のない話ばかり)
それに、クロードの話では妖精たちがルールを破ると石化の魔法をかけてくるということだったはずだ。
絶妙に話がかみ合わない。
どちらが正しいのだろうか。
「じゃあ、ルールは何なの?」
「「「「「ルール??」」」」」
5つの声が重なる。
本当に分からないといった様子だ。
「聞いたのよ。あなたたちには3つのルールがあるって危害を加えないというのはわかるけれど」
ああ、という表情になる妖精たち。
「僕らは気まぐれ」
「魔法使い以外には力を貸さない」
「主様なら私たちの名が自然とわかるもの」
「だから名前を聞いてくる奴は魔法使いじゃない」
「僕らを使おうとする奴は石にしちゃう」
それが名前を聞いてはいけないと言われている理由のようだ。
確かに、なんとなく彼らの名前が口をついて出てきそうなふしぎな感覚が先ほどからしている。
そっちの理由は分かったが、もう一つの理由は何なのだろう。
「じゃあ渡されるものを食べてはいけないっていうのは?」
「僕らが作り出す食べ物は」
「私たちの魔力を宿している」
「魔法使い以外が食べれば」
「たちまち石になる」
「だからだめ」
(なるほど)
ちゃんと言い伝えは正しいみたいだ。
ということはクロードと妖精たち、どちらの言うことも正しいということになる。
つまりエミリアは魔法使いの血を引く者で、妖精たちはずっと帰りを待っていたのだということだ。
「だから、悪い王を倒してほしい」
「私たちだけじゃできない」
「だから待ってた」
「魔法使い! 私たちの主!」
「旅に出る決断を」
「ええ……」
こうしてエミリアの冒険が始まった。
◇
エミリアは5人の妖精を従え、扉をくぐり、魔法を使いながらいろんな世界を旅する。
時にはとある世界を救い、時にはとある世界で悪い王を打ち取った。
だが、その物語はここで語るのはやめておこう。
女性はぱたりと絵本を閉じる。
「ええ~もっとお話聞かせてよ」
「ふふ、今日はもう遅いから寝なさいね」
「その妖精さんはどうなったの? 女の子は?」
「はいはい、また今度ね」
「はーい」
女性は眠たそうな我が子の頭をなでると部屋を暗くする。
「おやすみ。
女性が部屋のドアを静かに閉めると、カチリと音がした。
彼女の周りにほのかに光る5色の光が集まると、
魔法使いの血筋の少女は、いくつもの
そして、その物語は今でも語り継がれている――それだけは確かなのだ。
世界を旅する魔法使い 香散見 羽弥 @724kazami
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