第2話
扉をくぐった先は一面が青で満たされた世界だった。
エミリアがその景色を眼に収めたのはほんの一瞬のことで、数秒後には重力に従い体が落ちていった。
エミリアが落ちていると認識したのは数秒経ってからのことだった。
「きゃああああああ!!!!!」
全く予想だにしていなかった展開に思わず甲高い悲鳴がもれる。
扉はあろうことか、空中へとつながっていたのだ。
つまるところ、扉をくぐった瞬間に前も後ろも分からない状態となったのだ。
確かにエミリアは今、青空を見ている。だが、彼女が望んだのはこうじゃなかった。
地上から青空を見たかったのだ。
一体だれが空を見るといって空中から見ることを想定するだろうか。いや、しないはずだ。
そんなことを場違いにも考えてしまう程、彼女は
とにかくどうにかして浮かばないと、このまま落ち続けてそのうち地面と
(それだけは嫌!)
エミリアは
束ねていた髪が風の勢いで上へとたなびき、結ゴムが外れた。
その亜麻色の間から、ふと彼女の目に白い影のような姿が映った。
彼女は見たことがなかったけれど、それは白い鳥のようだった。
思わずエミリアは大声で叫ぶ。
「すみませえええん!! たすけてくださあああい!!」
声に反応したのか、その白い影はエミリアの元へとやってきた。
見れば
その人は落下するエミリアに合わせ、下へと向きながら飛行する。
「こんにちは! 何しているの?」
急激に落ちている現状に似合わないゆっくりとした口調でそれが聞く。
何をしているも何も、ただなすすべもなく落ちているだけだ。
「落ちているんです!!」
「楽しいの?」
「そんなわけないでしょう! 助けてほしいの!!」
「助ける? 自分では飛べないの? 翼は?」
「飛べるわけない! 翼ってなに!?」
エミリアが叫んで助けてほしいと伝えると、その人は確かめる様にエミリアの周りを一周する。
「本当だ! 翼がない!」
ようやく慌てたような声を出すその人は、エミリアの下へと加速すると彼女の腕と胴を抱える様に浮上した。
急激にしまる腹に思わず「ぐええ」という首を絞められたような声が漏れる。
が、やがて安定したように空中でふよふよと浮かんだ。
「た、助かった……?」
見れば地面が近くまでせまっている。
もしもあのままだったら今頃ダイブトゥ地面を果たしていただろう。
「君危ないことしたらだめだよぅ」
受け止められた状態で固まったエミリアの上からぷりぷりとした声が降ってきた。
見上げれば白い髪に金色の目を持った男の子が垂れ目を吊り上げて怒っている。
「翼もないのに、空を飛ぼうとするなんて!!」
その
「ご、ごめんなさい。でも飛ぼうとして空中にいたわけじゃないの」
「え?」
「私にも何が何だか……」
とりあえず、目の前にある地面に降り立つ二人。
お互いにまずは現状を確認する必要がありそうだ。
「とりあえず……僕はハルピィ。空の国の少年
「助けてくれてありがとう。私はエミリア。空の国……っていうのは分からないけど、ネノクニのエミリアよ」
「ネノクニ? 聞いたことのない国だなあ」
ハルピィは首を傾げている。
「それに、君どうして翼がないの? とられちゃった?」
「いや、元からないのよ」
彼は本当に分からないというようにじろじろと見まわしてくる。
どうやら彼の話によると、空の国には翼がない者はいないらしい。
途中から初めて見たと嬉しそうにぐるぐる回るハルピィに、エミリアはなんとなく気まずくなって顔をそらした。
2人はそれから少し話をして情報を
「でも本当に翼のない人がいるなんて思いもしなかったなぁ。それこそ図書館の童話とかで見ただけだよ」
「そうなの? 私は逆に翼のある人を初めて見たわ。そもそもそれ、翼っていうのね」
「うん! 綺麗でしょ?」
「そうね。私はそもそも青い空を見たこともなかったから空を飛ぶっていう
エミリアに褒められたハルピィは顔を赤くして頬をかいた。
どうやらハルピィは素直な性格のようで、もじもじとしている。
「えへへ。僕の
「え? ここは違うの?」
「ここは空に点在する休憩所だよ。人が住んでいるのはもっと大きな島なんだ」
「へえ! じゃあせっかくだしおじゃましようかしら」
「うんうん! 僕がかかえて連れて行ってあげるね!」
エミリアも彼と同じように素直なところがあるので、仲良くなれそうだ。
エミリアは彼に抱えてもらい空へと飛びあがった。
「わあ~~~!!」
初めての
その声は喜びに満ちていた。
空を飛んでいるうちにさまざまな話をする二人。
話題はハルピィ達の種族の話やエミリアの夢の話、そして彼女が追ってきた光の話など様々である。
「へえ、じゃあその光に導かれたんだね」
「そうなのかしら。本当に何にも分からなくて……。だからあなたと出会えてとっても嬉しいわ」
「ふふ、僕もだよ。……あ、そうだ。確か僕のおじいちゃんが翼のない人を見たことがあるって言ってたはず。もしかしたら何かわかるかもしれないからあってみる?」
「え!? いいの? ぜひお願いしたいわ」
「分かったよ。もうつくから、とりあえず僕の家へ行こう」
二人は雲の上に浮かぶ島の上に降り立つ。
地面はふわふわの雲でできており、これまた初体験だったエミリアは楽し気な声を上げる。
「すごい! すごぉい!!」
「あはは、そんなに珍しいかな?」
「そりゃあもう!! 私のいた所は
「そうなんだ。じゃあ僕の家の中も目新しいかもしれないね」
足で雲をフミフミしながら興奮した様子で話すエミリアに、ハルピィはそう告げる。
「おうちの中?」
「うん。だって家具なんかは全部雲でできているし、きっと気に入るよ」
「本当!? うわあ、楽しみ!」
「と、まあそれは置いておいて。僕の家はこっちだよ。ついてきて」
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