彼女は戦う。魔導の力と、ハガネの意志を纏って。

 主人公は現代日本でOLとして働く一般人女性、愛称《サカナ》。ある日、帰宅途中の彼女の前に白髪の怪人、そして金属製のアタッシュケースを車に載せた男が現れるところから、物語は衝撃的に幕を開けます。
 過去文明の魔法使いにして侵略者だという怪人の襲撃から命を守るため、サカナは「平行世界の未来からやって来た」アタッシュケース――もとい、「魔力」を動力源として動く戦闘用パワードスーツである《ハガネ》を纏い、協力者・火勢とともに過酷な戦いに身を投じることになるのですが……。

 作品最大の見所は、壮絶でありながら細やかな描写が際立つ、大迫力の戦闘シーン。《ハガネ》の動力源は「魔力」であり、つまりこの作品はファンタジーなのですが、実際の戦闘はパワードスーツという「メカ」の駆動によってなされるため、ビジュアルやアクションは完全にロボットアニメのそれ、つまりSFなのです。このファンタジーとSFという正反対の要素の融合が絶妙で、丁寧な説明と文章ゆえに、どちらのジャンルファンでもすんなり受け入れられる説得力を有しています。特にメカの機構的描写は圧倒的で、長丁場ながら緩急が効いており読者を飽きさせず、次々登場する武器や機能に胸躍ること間違いなしです。
 また、パワードスーツの機能だけに頼ることなく、綿密に練られただろう「魔法」の設定に基づき、地理・地形・時刻・周辺環境・移動手段や小道具等、ありとあらゆるサブ要素を巧みに生かした作戦や展開にも唸らされます。

 バトルアクション作品としてだけでも十二分に楽しめるのですが、さらに《サカナ》や火勢たちの心の動きも繊細に描かれたヒューマンドラマとしての魅力も兼ね備えており、人外故に時々ズレる発言が可愛らしい《ハガネ》も含めた彼らのやりとりも作品の見所の一つです。

 作中で描かれる逃走劇は、実時間にして僅か数日。けれど息つく間もないほど重厚な物語となっており、読み終えたときの達成感は抜群です。できることなら、実写かアニメで、映画館の大画面で観てみたいと思えるようなスペクタクル大作でした。
 筆者の思い入れが全編からひしひしと感じられるこの作品。《サカナ》と《ハガネ》、そして火勢の戦いの結末を、どうぞ見届けてください。

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