最終章 EP(終)
-エピローグ-
結局、私にはアーカーシャを降臨させることは出来なかった。それは何も彼女の言葉を信じた訳ではない。私の心がもう既に耐え切れなくなっていたのだ。
勝ったのは彼女、負けたのは私だ。もう私には何も残ってはいない。私を縛り続けていた復讐心は
おそらく、私はアグニに利用されていたのだろう。あの御会見のときから、アグニにはこうなることが分かっていたのだ。私はアーカーシャではなく、彼女の
アグニの本当の狙いは分からない。あくまで自らの手で空の力を持つ彼女を滅ぼそうというのか。それとも彼女を使って、他の天人の優位に立とうとでもしているのか。
それならお生憎様だ。彼女はそんなに御しやすくない。この天の邪鬼は文字どおり、天人に仇なす切り札となるだろう。そのためにも、
もうこれ以上、誰かに振り回されるのは嫌だ。私は敗者の定めに従い、この世界から消えることにする。激しい攻防の余波を受けて、間もなく
しかし、事もあろうか彼女は自らに空属性を行使した。馬鹿なレイニー、そんなことをして何になるの。ここであなたまで消えてしまったら、私のこれまでは何だったというのよ。
「レイニーには生きて欲しい。この先の世界はきっと辛いものになるけれど、あなたにはそれを変えるだけの力があるはずよ」
私は懇願した。火の天人の復活によりヌーナ大陸は激変する。いや、おそらくは他の大陸でも同じことが起こるだろう。人が人を支配する時代は終わり、再び神話の世界に回帰するのだ。
しかし、或いはレイニーであれば、かつて天人を滅ぼした力を受け継ぐ彼女であれば、そんな運命を変えることが出来るかも知れない。その芽をこんなところで摘む訳にはいかなかった。
「私もミスティには生きて欲しい。これまでも、これからも、ずっと一緒にいて欲しい。初めて出会ったあの日から、ずっとあなたのことが好きだった」
彼女は私から目を逸らさず、一言ずつ絞り出すように声を紡ぐ。それは紛れもなく愛の告白……そして、永遠の誓いのようでもあった。
きっとその言葉は、私が望んでいたものなのだろう。それを嬉しいと思う、私の気持ちは真実だ。それでも、私の心には影が差す。私が愛したレイニーは、今ここにいるレイニーで、そして失われゆくレイニーなのだ。
その溝はおそらく永久に埋められない。あなたが初めて出会った私、私が初めて出会ったあなた、それは同じものではないのだから……。
私は黙って首を振ると、空の力の
徐々に意識が混濁し、思考は緩やかに停止していく。
私の意識は遥か遠けきパノティア大陸を馳せていた。お姉ちゃんにお父様、三人で暮らした日々。あの日の祭壇から始まった物語がいま幕を閉じる。
本当の私はあのときに死んでいた。これは本来の形に戻るだけ。私には過ぎた人生だった。天に捧げられし贄は元の
―――否、我らが欲せしは贄に
不意に私の頭に懐かしい声が響く。思わず意識を戻した瞬間、身体の中で
以上が今代の、そして最後の封禅の儀の顛末である。
-完-
Weather -姉 のち 姫 時々 神- アクリル板W @kusunoki009
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