「これで終わりね。さようなら、レイネリア＝レイ＝ホーリーデイ」

　特異な法則が支配するオノゴロの空間、そして満ち溢れるマイナが織り成す決闘は、永遠の根比べの様相を呈（てい）していたが、終（つい）には一方が力尽き、決着の時を迎えた。

　荒れ狂う猛攻、五大の氾濫、遺志と意地のぶつかり合い。地に臥（ふ）した自分に少女が近付くと、身を屈めて左腕を取り、それを平らな胸へと抱いた。

　そして、祈るような仕草の後、こちらの身体を通して力を発動させる。しかしながら、自分にはマイナとの親和性が全く無いため、外部からであっても魔法を行使することは出来ない。

　そう、少女が行使したのは空属性であった。魔法の素養がある者が空属性を操ろうなど自殺行為に等しい。唯（ただ）でさえ、小さな五歳の身体が生命力を奪われて縮んでいくようにも思えた。　

「ど、どうして……」

　息も絶え絶えになりながら、満身創痍の状態で問い掛ける。しかし、少女の表情は窺えず、黙って首を振るだけであった。

　いつか、演習の夜に穹廬（きゅうろ）で抱き留められた胸。今では随分と小さくなってしまったけれど、あのときと同じように少女の命の鼓動が伝わってくる。

　少女の行動の理由は分からない。それでも、結末だけは分かる。強制的に発動された空の力が止められない。この優しい鼓動も遠からず消えてしまうだろう。その前に伝えねばならないことがあった。

　あの日、少女を失望させた好戦的な自分。あれは空の天人、アーカーシャなどではない。力に溺れる弱い心が表層化したものなのだ。

　いつも心の何処かで力を求めていた。強大な力があれば、いつまでも少女と一緒にいられると思っていた。その報いがこれだ。

　確かに断片的な思念が脳裏を過（よぎ）ることはある。しかし、それは空の力に付随した澱（おり）のような残滓であり、疾（と）うにその本体はこの世界から消えていると確信している。

　しかし、その事実にどれほどの意味があるのだろう。少女は走り続け、そして終焉へと辿り着いた。今更、それが徒労だったと伝えたところで、ただ残酷なだけではないか。

　案の定、それを聴いても少女から流出する生命力は途絶えない。自壊していく大切な人を止められない。終わりはすぐそこにまで迫っている。このままでは、永遠に少女を失ってしまう。

　そんなのは嫌だ。こんなものを見るために旅をしてきたのではない。こんなことをしたくて力を得たのではない。こんな結末は断じて認められない。

　考えるのだ、考え続けなければならない。それこそが最初に手にした、ホーリーデイ家たる証ではなかったのか。

　しかし、無情にも時だけが過ぎていき、絶望的な未来が現実と重なり合おうとしていた。自分の力の無さを……いや、自分の力をこれほど恨めしく思ったことはなかった。

……

　そう、これは自分の力なのだ。止めることは叶わずとも、確かに自分から発せられている力なのだ。ならば、自分ごと止めてしまえば良いだけだ。

　仰向けの体勢のまま、残った右腕を自らの胸に当て、空の力を顕現する。既に尽きていたはずの力は、皮肉にも少女により強制発動させられたことにより、自身から生命力を奪うことを可能としていた。

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