第8話 結論

 結論から言うと、僕が作った新しいお酒として押し切った。


 一日に作れる量が限られていること。

 口外はしないこと。

 そして、一日一本だけ、二人に売ってあげると伝えた。

 

 それを伝えた時の二人の顔は忘れられないだろう。

 僕はおそらくこの関係を続ける限り、彼らから守ってもらえることを確信した。


 それから彼らは毎日、毎日、僕の店にやってきた。

 しかも朝一に来る。

 

「おはようございますお酒ください!」と元気よく来る。


 なんなの?

 アル中なの?

 ログインボーナスなの?

 デイリーミッションなの?


 しかも、少し我慢して飲まずに貯めればいいじゃんと普通なら思うでしょ?

 二人とも受け取った瞬間に一気飲みだよ?


 その代わり二人とも、もう手が付けられないほどの存在になってしまった。


 メレレニアはカクテルを好んだ。

 ラム、ジン、ウオッカ、テキーラ、などのベースに加え、様々なフレーバーを摂取した結果『虹の天聖女』という二つ名を持つに至る。

 元々、治癒や回復といった癒しの魔法と、光属性の魔法しか使えなかったはずなのに、五元素魔法だけじゃなくオリジナルの魔法を創りだす存在になっている。

 先日も「ラヴィアンローズ」などというカクテルを飲ませたところ、空一面に真っ赤なバラを出現させ、巨大な棘の鞭と毒の臭気で、隣国から攻め込んできた傭兵団を全滅させていた。


 クルスアロブはウイスキーを好んだ。

「シングルモルトはスコッチに限りますね」などと英国紳士のような雰囲気をまとってはいるが、バーボンもアイリッシュも、要するになんでも飲む。

 つまりはただの飲兵衛に過ぎない。

 だが、その上がり続けた身体能力は、山を砕き、海を割り、森を農地にするという逸話を生み出した。

 つーか全部本当の出来事だったりする。

 しかも素手だ。身体能力だけで何もかも更地にしてしまうので『虚無の聖騎士』なんて言われてるが、もう聖でもなんでもないよね。


 僕らの街はいつのまにか『ヨシーアイランド』と呼ばれている。

 なんでも、幻の街、辿り着けない陸の孤島だからだそうだ。


 そうなってしまった理由はお判りになると思うが、ほぼすべての住民が、僕が召喚するお酒を摂取している(内緒だったのは最初の頃だけだ!)

 それをできるだけ多く手に入れたいと願う結果、排他的というか鎖国的な街になってしまった。

 

 ただ、管理された暗黒街、いわゆるディストピア的な状態かというとそうではない。

 いたって平和で、秩序の保たれた愉快な街と言える。

 みんな僕のお酒が目当てで、それが一体感と団結力を生み。共通の敵を打ち倒す。   

 移住希望者だって受け入れてるけど、お酒の購入権は順番待ちであることを了承してもらってる。

 みんなお酒の購入順番は守るし、召喚量以上の販売はしないので、在庫は少しずつ溜まっているのだ。


 僕のレベルも順調に上がり続け、本日、やっとレベル10。アルコール量1000ml、アルコール度数50までの飲料を入手できるようになった。


「おはようございます、お酒ください!」


 元気に訪れたクルスアロブにビールを渡しながら伝える。


「今日、広場にみんなを集めてよ。全員分の本数が確保できたからさ、宴会しよう」

「え! 全員分⁉ 大人だけで二千人くらいいますけど」

「大丈夫。僕にとっての節目だから、みんなで騒ぎたいんだ」

「なんだか分かりませんがめでたいです! すぐに手配します!」


 クルスアロブはビールを飲みながら疾風のように走り去る。


 地球から酒を根こそぎ奪うのが先か、僕の命が尽きるのが先か、少し前まではそんなことを考えていた。


 ふと、神様の前で「酒を飲みたいと思うときがない」と言ったことを思い出した。


「めでたい、か」


 なるほど。

 酒はこういうときに飲みたくなるものなんだな。



「おはようございます、いいお天気ですね、お酒ください!」

 

 メレレニアのニコニコ顔を見て、僕も久しぶりに飲もうと思った。



―― 了 ――

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酒を殺す! K-enterprise @wanmoo

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