第7話 思案

 ウチは酒屋だ。

 こっちの世界のクッソ不味い醸造酒を作ってる。

 それでも、酒と言ったらウチの酒のことで、この街の酒場や家庭で消費されていて、誰も文句なんか言わない。

 いいも悪いもない。それしかないからな。


「あのね、あの、不思議な筒に入っていた甘い回復薬、ヨシー君が作ってるって言ったよね。あれ、もっと、無いの?」


 ずいっと近寄るメレレニアの顔は期待と不安で紅潮している。

 てかあなた聖女でしょ? そんなだらしない顔しちゃだめでしょうが。


「お、俺もだな、あのキンキンに冷えたあれをだな、いや、あの時すごい力が出てな、美味くて、それ以来ずっと力がみなぎっていて、のど越しが強烈で、もう少し飲んだら、また神に近づける気がして、どうなってしまうのかって探求心があるだけで他意は無い」


 他意だらけじゃねーか。

 ん? ずっと力がみなぎっている?

 僕も確かにそうだったけど、時間制限で気を失うし、長時間寝たみたいだし、起きたら二日酔いだし……。


「二人に聞きたいんだけどさ。体に不調は無いの?」

「不調どころか、この肉体だけでどこまでも行けそうだよ」


 クルスアロブは痩せマッチョな騎士服でポージングする。

 そういえばこいつが金属甲冑と剣を装備していないのは初めて見る。


「クルスさん、装備は」

「あんなもの、飾りに過ぎない」


 お、おう。


「あのね、魔法ってね、触媒が必要だったの。杖と魔法石が」


 メレレニアが僕の手を握り熱く語る。


「は、はい。知ってます」

「今は、こんな感じです」


 握られた両手から眩い光と共にぽややーんと暖かい癒しの波動が流れ込んでくる。

 なんだこれ! 熱っ! 眩しっ!


「はい。キュアですよ」


 毒消し魔法ってやつか。ふむ、頭痛がだいぶ良くなったぞ。


「あれ? 触媒は?」

「あんなの飾りです」


 おいちょっと待て。お前らまさか能力値の上限が上がったのか?


「あのさ、頭が痛くなったりしてない?」

「「快調です」」二人は声を揃える。


 僕は二日酔い。こいつらはレベルアップ状態。

 するってぇと、これはペナルティってやつなのか?


 僕は地球から酒を召喚できる。

 地球の酒を飲むとこっちの人間はまるで神薬のような効果が出る。

 そして僕だけが、バッドステータスに陥る。

 

 この世界は命が軽い。

 街の外に出ればケモノや野盗などが存在し、前世の倫理観は通用しない。

 だがこの力があれば、デメリットはあっても、他人をうまく使って、なんだか上手く生きられるような気もする。


 ただなぁ、こいつらの顔からは狂信者か薬物中毒患者的な危うさを感じるんだよな。


 今ならまだ戻れる。

 あれは身体能力向上の試作品で、適当に作ったからもう再現できないと言えばいい。

 その結果、まさか、拘束や監禁や拷問なんてない、よね?

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