第2話 聴取
「以上が私からの説明です」
「ふむ、客観的事実と比べても齟齬はないな。つまりあなたは正直者だ」
「世知辛いものです。そうやって正直に生き続けた結果が暗殺ですよ? しかもクソ不味いワイン樽に詰められるなんて。せめてヤ〇ザキの25年ものに浸かりながら死にたかったですよ」
「? あなたは酒が嫌いだったのでは?」
「いえ、別に? 飲みたいと思うときがないだけです」
「それじゃなんで飲酒文化をなくそうと、政界進出まで企んだんです?」
「神様ならそのくらい分かるんじゃないですか?」
「我々が知るのは事象のみ。個々の思考まで拾っちゃいませんよ」
「はあ、まあ言ってしまえば、ただの興味ですかね。いや、私は昔けっこうなヘビースモーカーだったんです。周りもみんなタバコ吸ってましたし、コマーシャルでもドラマでも映画でも、一つの小道具として市民権を得ていたはずの存在だったのに、ある時から急にその存在感は小さくなった」
「まあタールだのニコチンだの、健康にはよくないんじゃないですか?」
「でも私の祖父なんか、103まで生きましたけどね、往生の瞬間までハ〇ライトとか吸ってましたよ? 要は酒も同じじゃないですか。ていうか食事だってそうです。体にいいとか悪いとか、でもその人に合わなければ体を壊すんです」
「だから、体に悪いからという理由で酒をなくそうとしたんでしょ?」
「いえ、タバコは社会的、文化的に殺されたのに、酒は残ってる。それが不公平だと思ったんです」
「不公平……」
「神様、いいですか? 飲酒文化の責任の一端には、あなたの存在も大きいんです」
「酒の神様はいるのに、タバコの神様がいないからとか?」
「お神酒だの、お供えだの、酒飲みは神様をダシにして正当性を主張してんです」
「確かに、供えられてもなぁとは思っているが、信仰心の表れだからなぁ」
「不干渉ってやつですね? そうやって知らぬ存ぜぬを気取るから、死後の世界をダシに悪徳な宗教だって増え続けるんですよ?」
「神に善悪を説かれてもなぁ」
「責任を取ってください」
「あなたをこのまま生き返らせるとか?」
「いえ、争いにはもう疲れました。どこか知らない世界に転生させてください。繰り返しますけど、神様の飲酒に対する暗黙的許可感が私の命を奪ったも同然なんですよ?」
「人間如きに脅されるのは業腹だが、そんな生きのいい主張をする死者も珍しいな。そうさな、知り合いの神様が管理する世界があるから、そこを紹介してやろう」
「お、言ってみるもんですね。ついでに言っちゃいますけど、どうでしょう転生特典みたいなものをつけてもらうってのは?」
「要求が通ると際限なくゲスになるタイプだね。まあいいでしょう、あなたの因果に沿った能力を与えましょう」
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