第4話 召喚

『酒類召喚』(一日の召喚限界はレベルに準ずる)

〇レベル1:アルコール量100ml ただしアルコール度数5までの飲料に限る。


 僕はすぐに『ビール』を望んだ。

 すると手の中にひんやりとした金属製の缶ビールが現れた。


 ラベルにはこの世界では馴染のない言葉や模様が描かれていたが、僕にはそれらがスラスラと読めた。

 迷いもせずプルタブを開け、腰に手を当てて一気に呷る。

 未成年? は! 郷に入っては郷に従えだ。

 こっちじゃアルコール摂取は十歳から合法なんだよ!

 ウチの酒はクッソ不味いから飲んでないけどな!!


 ごきゅごきゅと喉を鳴らしながら500mlの缶を飲み干す。

 召喚から完飲までわずか五秒!


「ほわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 無意識で分かる。

 地球とは別の世界で、肉体の構成要素もいろいろと違うのだろう。

 これは酒であって酒じゃない!

 体中に、力が、みなぎる!!


 今まさに、聖女メレレニアさんと聖堂騎士クルスアロブが崩れ落ち、ワイルドウルフが吠えながら彼らにとどめを刺そうとする瞬間、僕の体は跳躍し、ウルフの顔面を殴り飛ばす。

 攻撃されることを予期していなかったケモノは吹き飛ぶが、致命傷にはなっていない。

 なにせ僕は子どもの体だもんな。

 いくら身体能力が向上していても、瞬殺は無理だってば。


 それでも大きく吹き飛ばし、民家の壁面に叩きつけることができた。

 崩れ落ちたウルフがふらふらと頭を振っている今がチャンス!


 僕はまず、ほろほろと酔える低アルコールのカクテル飲料を召喚し、プルタブを開け、瀕死の聖女メレレニアさんに渡す。


「これを! 回復薬です!」


嘘だけど。


 でも、この世界では怪我したら回復薬、なので朦朧としたままの彼女は震える手で受け取り、小さく喉を鳴らす。


「なにこれ美味しい!」


 さまざまな状況を一瞬で忘却し、メレレニアさんはふにゃりと微笑みを浮かべる。

 桃味のフレーバーだったからか、彼女の頬もピンク色に染まる。

 そのままコクコクと一気飲みする姿がめっちゃ可愛らしいが、今はそれどころじゃなかった。


「クルスさんに回復魔法を!」

「は! え、でもわたし魔力切れ……え? 怪我も魔力も全回復してるぅぅ? なんで⁉」

「質問は後で!」


 僕は、ゆっくりと動き出すウルフを見ながら指示を出す。

 同時に、キリンっぽい幻獣が描かれたビールをもう一本召喚する。


 アルコール量100mlまでで、度数は5までの飲料ということは、500mlのビールなら4本まで召喚できるということ。

 カクテル飲料は度数3で350mlだから、アルコール量はえっと、約11ml。

 ビール2本で合計50mlだから、すでに61mlを召喚済み。

 今日の召喚制限まで残り39ml分。


 前世が日本人で良かった。

 義務教育のおかげで暗算もばっちりだ。


「ヒーリング!」聖女の高い声が響く。

「……え、なんだ? 俺、死んだんじゃ?」

「大丈夫! ただの致命傷だから! そんなことよりこれ飲んで!」


 で生き返ったクルスアロブに言いながら開けたビールを渡す。


「冷た! なんだこれは?」

「身体強化薬だから! いいから飲んで、早く! もう限界なんだ!」

「お、おう」ごく……ごきゅごきゅごきゅ!


 恐る恐るだった嚥下音が、すさまじい勢いに変わる。


「ぷっひゃああああぁぁなんじゃこりゃあぁぁうんまああああ!!」

「どうでもいいから早く! ウルフを!」


 トリップして昇天しそうな聖堂騎士を蹴りつけ、現状を確認させる。

 コキコキと首を鳴らしながらウルフが仁王立ちし、怒気を膨らましている。


「は! だが剣が折れてしまったのだ」

「その拳は飾りものか? 殴ればいいだろうが!」

「拳……」

「は、早く……」


 クっ、僕がもう限界なんだよ!


「ヨシー君!」


 意識が薄れ、崩れ落ちる前に見たものは、聖堂騎士クルスアロブがワンパンでワイルドウルフを爆散させた光景だった。

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