第6話 懇親パーティ

騎士になろう、急に思い立ち、思わず立ち上がってそう言った。


会場はまだ、退場可能の指示がでていなかったので、立っている人は少なく、ちょっと目立ってしまった。


「順番にご案内しますので案内が有るまで立ち上がらないでください。」


案内係の人に注意をされ、周囲にはクスクスと笑われた。

周りを見回して、一旦座り直した。

ジョセフィンが、俺の袖を引っ張る。


「いやいや。なんで『そうだ、王都行こう』みたいなノリなんですか。」

「騎士科に入ろうかと思って。」

「はぁ?本気ですか? 魔導科でなく?」

「うん、騎士って格好いいだろ。」

「それ、今、素敵って言われたからじゃないですか。」


ジョセフィンは困惑気味の様子だ。

フローラはクスクスと笑っている。


「マーカスは騎士科に決めたの?頑張ってね。」

可愛い笑顔で応援してくれた! 

「うん、頑張るからね!」


フローラに、宣言すると、ジョセフィンが隣りで頭を抱えていた。


学園の説明会の後、懇親パーティというものが開催された。

パーティと言っても領地から長時間掛けて王都に来て、ほとんど休む時間もなく参加している人がいるため、飲み物等で労うのが目的らしく

服装は問わず、時間も極短い時間の予定なのだそうだ。


言われてみれば、かなり力の入ったドレスを来ている令嬢も居れば、

簡素なワンピースの姿の令嬢もいる。旅姿のままの人は流石にいないが、今朝王都について、宿で急いで支度をして来たという感じの人も少なくない。


フローラは、派手ではないが細かな刺繍が入った可愛らしいドレスを着て、しっかり髪もセットしている。先週王都に着いたと言っていたな。


「フローラの家は王都にお屋敷があるの?」

「いいえ、今は父の友人のお屋敷に泊まらせていただいているの。入学してからは、寮の予定よ。」

「寮かぁ。」


寮生活ってちょっと楽しそうだな、と思っていると、ジョセフィンにちょいっと脇腹をつつかれた。わかってますよ。わざわざ住居整えたのに寮には入りませんよ。


給仕から飲み物を受け取って話していると、後ろから元気な声で話しかけられた。


「おう!君、さっき、騎士になるって言ってた人だろ。騎士科に入るの?俺もだよ!」


振り向くと、少し背が高い赤い髪をした少年が、日焼けした快活な笑顔を向けていた。


「あ、俺は、アレクシス・ランゲ。アレクシスと呼んでくれ。」


ランゲ男爵領は、王都の南に位置していて、王都に近い。王都の市場では、ランゲ領産の野菜を見かけたな。


「マーカス・プリメレモンだ。マーカスって呼んで。」


名乗って、アレクシスと握手を交わしていると、アレクシスの近くに寄るジョセフィン。


「やあ、僕は、ジョセフィン・サリエットだよ。よろしくねぇ。ジョスでもジョセフィンでもいいよ。」


アレクシスに警戒しているのか、口調が軽薄っぽいけど、切れ長の目はじっとアレクシスを見据えている。


「おう、よろしくな。」


アレクシスとジョセフィンが握手をする。


「君も、騎士科に入るのか?」

「騎士科?」


アレクシスに言われてジョセフィンは、少し目を見開き、すぐに、口角を上げて微笑んだ。


「うん。騎士科にしようかなって‥‥、でも実はまだ迷い中なんだよね。」

「そうなのか。俺たちは騎士科だぞ。もし騎士科に入る事になったら一緒に頑張ろうな。」


アレクシスは、俺の肩に腕を回して、笑う。ジョセフィンは、口元に微笑みを浮かべて頷いた。でも目が笑ってない。


「本当に騎士科に入るつもり?」って顔してる。うん。そうだよね。でも、男子だけで盛り上がっているわけにはいかない。


俺は、フローラの方に顔を向けた。


「フローラは、淑女科、だったよね。説明会で詳細聞いても、変わらず?」


俺が話しかけたので、アレクシスとジョセフィンの視線がフローラに向けられる。

注目されたフローラはちょっと戸惑った様子で、少しだけ視線をさまよわせてから、にこりと笑った。


「ええ、思っていた内容と変わらなかったし、淑女科で申請するわ。あ、私はフローラ・パフィンよ。フローラって呼んでね。」


膝を少し曲げ、軽めのカーテシーをする。はー、可愛い。思わずダンスを申し込みたくなる。

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