第13話 早速トラブル
フローラが俺の隣りに立っていたジョセフィンに目を向けたのでジョセフィンも挨拶をした。そうしているうちに、アレクシスが俺達を見つけて声をかけてくる。
続いてフェリクスが来たと思ったら、カサンドラとイリーも近づいて来た。
段々、パーティの時みたいな状況になったな。
これから学園に通うのにあたって、交流を持てる相手ができるのはよいことだ。だけど、もう少しフローラとゆっくり話したかった、と思ったのは内緒にしておく。
不意に、何かぴりっとした空気を感じて、思わず、一歩右に動いた。さっと動く気配とガッという衝撃音。
咄嗟に手を伸ばした。弾かれたように倒れるジョスの腕を掴んで引き寄せる。
「ジョス!」
ジョセフィンの左のこめかみ付近が赤くなっている。左目をほぼ閉じているが、右目の視線の先に、身体の大きい男性が、立っていてこちらをみていた。
「あー、失礼。小さすぎて気がつかなかったわぁ。」
青に赤い縁取りの胸章。騎士科の3年か。灰色の髪。シャツの上からでも分かる発達した胸筋。
こちらをみて、ニヤニヤしている。何だこの男。
背負っていた大きめの鞄の角が、ジョセフィンのこめかみ付近に当たったらしい。正確には、俺が居た場所をあの鞄の角が通ったのだろう。
「あ、危ないではないですか。」
俺は、ジョセフィンを支えながら、灰色の髪の男を睨んだ。
「あ? なんだと、チビ。何睨んでんだよ!見えなかったって言ってんだろ!」
灰色の髪の男から、殺気が漏れる。空気がぴりっとする。ぶつかる前にも感じた感触だ。こいつ俺を狙ってたよな。
「‥‥!」
俺がぎゅっと拳を握りしめ、魔力を集めかけたとき、隣りでジョセフインが叫び声をあげた。
「あー!あーーー!!目がぁ!目がぁ!!」
「ジョス!?」
ジョセフィンが手で左目を押さえて、身体を丸めた。ざわっと周囲が騒がしくなる。
「目がぁ!目が痛いよぅ!」
「ジョス!」
ジョセフィンが左目を押さえたまましゃがみ込んだ。
「何事だ!」
鋭い声が響いて、騒がしかった周囲が途端に静かになった。
背が高く、オレンジ色の長い髪をした男性。青地に赤の胸章。ああ、あの人‥‥。
「オスカー!何があった?」
オレンジ色の髪をしたその人は、オスカーと呼ばれた灰色髪の男に問いかけた。
オスカーは、わずかに視線を泳がせた。
「俺は別に何も‥‥。」
「この人が、鞄をジョスにぶつけたんです!」
オスカーが何か言い訳する前に言ってやる。
カサンドラとイリーが前に踏み出して来た。
「私も見ました。」
「私も!」
口々に言う。オレンジ色の髪をした男が、オスカーを睨みつけた。
オスカーは、ちょっと戸惑った顔をしたあと、にやにやと笑った。
「フリードリヒ、わざとじゃねーんだよ。こいつらが大げさに言ってんのさ。」
「鞄をぶつけたのは事実なんだな。」
「わざとじゃねーって!」
「故意かどうかは、今ここで判断できないが、事故であっても下級生に怪我をさせれば問題となるのは分かるだろう。
別室で詳しい事を聞こう。君たちも。 それから、怪我した君は医務室へ。」
フリードリヒと呼ばれた3年生の傍に、別の生徒達が寄って来て、俺たちを別室へ促す。
ジョセフィンを、支えて立ち上がらせ、連れて行こうとするので、俺はジョセフィンの傍に張り付いた。
「俺も、一緒に医務室に付き添います。」
「君にも事情を聞きたいんだ。付き添いは彼らでやるよ。」
フリードリヒ先輩がそう言うけど、知らない人達にジョセフィンを連れて行かせられない。
「事情なら後ででも。ジョスを一人にさせられません。」
フリードリヒ先輩は、多分学園の秩序を守る立場の人なのだと思う。でも、ここは譲るわけにはいかない。
ジョセフィンは俺を庇おうとして怪我をしたのだ。俺もジョセフィンを護らないと。
俺が、じっとフリードリヒを見つめると、フリードリヒは、小さく溜め息をついた。
「行きなさい。話は彼らにしておくように。私は、フリードリヒ・ナランハ。騎士科3年だ。」
「‥‥マーカス・プリメレモン‥‥騎士科1年です。」
ナランハ伯爵家は、確か、先代が第2騎士団長をしていた思う。代々騎士の家系なんだろうか。
ゴリゴリに筋肉質というわけではないけど、体躯のバランスがよく、落ち着いている雰囲気は威厳を感じさせる。立派な騎士って感じだ。
そんな事を考えながら、ぺこっとお辞儀をして、付き添いの先輩方二人と一緒に、ジョセフィンを医務室に連れて行った。
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