第8話 それでも騎士を目指します
「あ、あの。騎士科だと、ダンジョンに入れるの? あ、お話中のところ割り込んで申し訳有りません。僕はフェリクス・フランコです。フェリクスとでもフェルとでも。」
おとなしそうな雰囲気の少年が話しかけて来た。
「その、僕は普通科コースを選択しようと思ってたんだけど、騎士科だとダンジョンに入れるって聞いて‥‥。ダンジョンって、前から興味があったから‥‥。
あ、でも、剣術とかは、あまり得意じゃなくって‥‥。」
ちょっとおどおどしながらも、どんどんしゃべる。
フランコ子爵家は、王都の東。ぶどうの産地で、ワインの生産が盛んだ。
フランコ子爵には会った事がある。お人好しで、少し自信なさげだけど、よくしゃべるおじさんだった。よく似てる気がする。
「君もダンジョン狙いかよ。まあ、普通科コースだとダンジョンには入らないよね。」
アレクシスが言う。確かに普通科コースは剣術と魔法の授業は少ないし、ダンジョンは行く機会はなさそうだ。でも、ダンジョンで選択学科を選ぶのは違うような‥‥。
普通に冒険者になればいいんじゃない?と言おうかと思ったけど、ここは貴族の子息子女の集まりだった。
嫡男でなく、家督を継ぐ予定がないから、将来を見据えて冒険者登録をする人もいるというけど、そう言う人は、最初から魔導科か騎士科コースを選択する場合がほとんどだと思う。
戦闘をする職業をめざすわけでもない人に、冒険者になったら、などとうっかり提案して危険な目に有った時、責任取れない。
「そ、そうなんだよね。それでちょっと騎士科もいいかもしれないと思い初めて‥‥。」
フェリクスが、もじもじしながら言うと、ヘンリーが、がっつりとフェリクスの手を両手でつかんだ。
「じゃあ、一緒に騎士科コースに入る?」
青白い顔に灰色の目をキラキラさせて、ヘンリーが言う。
フェリクスは、あわわ、と戸惑った様子。
そこに、また、声がかかる。
「やめてよねー。そんな理由で、騎士科コースに入るなんて。」
気の強い口調の女の子。真っ青な色の巻き毛。結構背が高い。
青い巻き毛の子の隣りに、更に背が高い、薄紫の髪をポニーテールにしている子が立っていた。
ドレスではなく、騎士の礼服みたいな格好だ。女の子、だよね?
「そうだね。ダンジョンに入るということは、戦闘をするということだ。安易な気持ちで学科を選択するのは危険だと思うよ。」
口調も男子っぽいけど、声は、少し高めで柔らかい。
青い巻き毛の子は、イリー・ブラウ子爵令嬢。薄紫色の髪の子は、カサンドラ・ヴィオレータ伯爵令嬢と名乗った。
二人とも騎士科コースを選択する予定だという。
騎士科コースは、少数だが他にも女子がいるそうだ。
「あ、貴女達は騎士科コースに入るんですか。凄い!女性の騎士様!素敵!」
フローラが、頬を染めて、二人に話しかけた。
「フローラ嬢は、淑女科って感じよねー。守って上げたいタイプ。」
「うむ、何か困った事が有ったら、言ってくれれば、助けに参じよう。」
「まあ! 嬉しい! 素敵素敵!」
女子で盛り上がっている。騎士科志望の男子も、周囲にいるのだが‥‥。
騎士科コース選択の女子二人は、騎士志望なだけあって、入学前から鍛えていたんだろう筋肉質でしなやかな体型をしている。
その二人の近くに居るとフローラは、すごく華奢に見える。
そんな事を考えながら眺めていたからか、俺も、同じ様に見比べられていたようだ。
「‥‥この中じゃ、アレクシス以外、騎士は厳しそうな気がするんだけど‥‥。本当に騎士科に入るの?」
一通り自己紹介をして、名前呼びの許可もだして、打ち解けて来た後、イリーが俺たちを見回して、本気で心配そうに言った。
うん、俺もね、あまり筋肉がつく体質でないし、背もそんなに高くない。でも成長期なんで、背はこれから伸びる予定だ。父も兄も身長は高い方だし。
ジョセフィンがちらりと俺の方を見た。俺の返答を伺っているようだ。
俺は、今日の今日まで、騎士科に入ろうと思っていなかった。騎士になろう、というのも今日突然思ったことだ。
「え、マーカスは騎士にならないの?」
フローラが、少し残念そうな顔をする。
「いや、俺は騎士科コースに入るよ!」
俺が断言すると、ジョセフィンの眉が下がった。
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