第9話 もう一人の王弟

王都の二番街。貴族と平民の中でも裕福な層が買い物に来るエリアに、構えた店舗。その店舗の二階の居住空間となっている部屋に入ると俺はソファーにどさっと座り込んだ。


「あー、説明会だけで結構お腹いっぱいだよ。」


だらり腕を脱力させる。


「マーカス様、マジで騎士科に入るつもり?」


俺に続いて部屋に入って来たジョセフィンは、そう言いながらお茶の準備を始めた。

懇親パーティが終わった後、王都での住居予定の店舗に戻る迄の間も、ジョセフィンは、何度もそう言っていた。


「‥‥。」


俺がずっと黙っていると、テーブルの上にお茶を出して、向かいに座ったジョセフィンが、ぐっと顔を覗き込んで来た。


「あの、フローラって令嬢の事が気になるからって騎士になるって短絡的すぎない?」

「うっ‥‥ゴホゴホ‥‥。」


危うく飲みかけたお茶を吹き出すところだった。少し咽せて、咳をする。


「‥‥何を言っているんだ‥‥。俺に騎士が向いていないとでも?」

「武力の話ではないですよ。カリキュラムみたって、領主として軍を率いるような教育をするようなものはなかったですよ。一般的な家臣としての騎士を想定した学科だと思いますよ。

領主に跪いて忠誠を誓って、戦うんですよ。」

「‥‥。」


ジョセフィンが言っていることは、まあ、わからなくもない。


「そもそも、護衛される側でしょ。」

「いや、そんなに重要人物じゃないだろ。」

「立場的にトリー殿下と変わらなくない?王弟殿下のご令息だし?」

「父上は王室を出てるからね。だいぶ違うだろ。」


俺の父、セロ・エルストベルクは、この国、ドラヒェン王国の現国王ノル三世陛下の弟だ。トリー殿下の父親であるシファル王弟殿下は、父セロの弟だが、父だけ母親が違う。

ノル陛下と、シファル王弟殿下は、正妃の子だが、父の母、フランシスカは側妃だった。

正妃は、祖母フランシスカを冷遇していたと聞く。

祖母フランシスカは伯爵家出身で、伯爵家野中ではあまり発言力が強くない家だったが、聖女として認定された為、側妃となった。

正妃にとっては気に食わない相手だったのだろう。国の結界を張る仕事で酷使し、待遇も酷かったそうで、身体を壊して父が幼い頃に病気で亡くなっている。


父は兄弟仲は悪くなかったが、母親を冷遇した当時の正妃を許していなかったし、フランシスカを守らなかった父親である先王とも確執があった。


南に隣接する小国が攻めて来たとき、正妃が強引に、父を前線の危険な場所の司令官に推薦したのに乗じて、軍を率いて相手国を支配し、独立国家を擁立すると宣言した。


慌てた当時の国王と王太子に何度も説得されて、結局辺境伯として、国に留まることになった。


支配した小国も領地に含まれているので、領地面積だけだと国最大だ。まあ、大半が魔獣が跋扈する土地だったりするんだけど。

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