第10話 そういうとこだよ
「でも、そっくりじゃないですか。それで髪染めてたんですか。眼鏡も。」
「父上が髪を染めてけって言ったんだ。眼鏡は兄上からだ。」
入学準備のために王都に行く直前、父と兄に、「目立つと面倒だから」という理由で、毛染めと黒縁眼鏡を渡された。
俺の元々の髪色は、プラチナブロンドだ。それを、ダークブラウンに染めていている。ブロンドは高位貴族に多い髪色だというから、街をうろつくと狙われる可能性もあるかと思い、素直に髪を染めたのだが、トリー殿下の姿を見て、父と兄が言っていた意味がわかった。
同い年の従兄弟だからか、顔立ちがかなり似ているのだ。背格好も近い。
トリー殿下の髪色は、もう少しオレンジがかったキャラメルブロンドだけど、俺が髪を染めず明るい髪色だったらもっと似て見えるだろう。
同じ髪色、髪型にしたら間違われるかもしれない。
単に似ているだけ、で済むなら、従兄弟だし、別に隠す必要もないと思うんだが、あの異様な人気具合では、そのままの姿でいたら多分、俺まで注目を浴びてしまう。面倒事しか想像できない。
今日の説明会みたいに、騎士に囲まれて特別エリアに一人ぽつんと居て、周囲の視線を集めているのを想像すると、無理って思ってしまう。
「‥‥特進科コースには行かないつもりだ。」
「まあ、そうなるよね。あー、豪華設備の教室。従者枠で入れるかと思ったのに。」
ジョセフィンの父親、ルドルフ・サリエットは、父がまだ「王子」と呼ばれていた頃から従者をしていたという。今は、エルストベルク家の家令をしている。
サリエット家は男爵家なので、従者としてでなくても学園に入学することはできる。だから学科の選択は自由だ。でも、俺と同じ学科に通おうとしてくれているようだ。
「ジョスは、騎士科が嫌だったら、俺の事気にせず、普通科でも魔導科でも通っていいんだよ。」
「いやいやいや。何かやらかすんじゃないかって気になって、他の学科とか無理でしょ。」
「失礼な。俺は何もやらかしたことないだろ。」
「そう?そうかな?‥‥それで、その髪ずっと染めるの? すぐ根元から、元の髪色でちゃうでしょ。」
「それは面倒なんだよなぁ。パサつくし。」
王都に来たときから、髪を染めているけど、髪が痛むのか段々と髪がパサパサしてきているのを感じる。
貴族間の面倒ごとは嫌だけど、まめに髪を染めるのも面倒な上に髪が痛むというのは嫌だ。
解決策を思いめぐらす。
「‥‥色換えの腕輪ってのが有るダンジョンがあったな。」
「ダンジョン産の魔道具?そんな珍しそうなもの、入荷待ってても中々ないってこないんじゃ。」
「採りにいけばいいだろ。」
色換えの腕輪は、魔力を込めると髪色が変わるという魔道具だ。王都から南西に馬車で1週間くらいの距離にあるダンジョンの中層で、ドロップしたという噂がある。
レアな品なので、探して買おうとするとかなり高額になるし、金を積んでもすぐに手に入るとは限らない。
なら、片道一週間かけてもダンジョンに採りに行く方が早いのではなかろうか。
「入学までまだ2ヶ月あるし、余裕だろ。」
「だからー、そういうとこ!そういうとこだよ、やらかしって!!」
別にダンジョンに一緒について来てくれとは言っていないのに、ジョセフィンが盛大に溜め息をついた。
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