第5話 そうだ、騎士になろう
生徒用の席が埋まって来た頃、ざわっと急に騒がしくなった。
「トリー殿下がいらっしゃったわ。」
誰かが小声で言った。
赤い軍服に身を包んだ騎士達に囲まれて、キャラメルブロンド髪をしたの少年がゆっくりと、前方の席の方に歩いて行く。
抑え気味に黄色い歓声があがる。
「なんて麗しい。」
「可愛らしい方ですわ。」
「王族の方に可愛らしいなどとは、失礼では。」
周囲が皆、トリー殿下に注目して、口々に何か言っている。
トリー殿下がやわらかな笑みを浮かべ、周囲に微笑みかけている姿をしばらく見つめた後、俺はちらりと、ジョセフィンの方を向いた。
ジョセフィンは、ちらりと俺を見て、軽く肩を竦めた。
区切られたエリアの手前に居た人達は、立ち上がって、お辞儀やカーテシーをしてトリー殿下を出迎えた。
出席者達の中でも礼服やドレスが豪華に見える。おそらく、特進科に入学予定の高位貴族の子息子女達なんだろう。
トリー殿下が席に着くまで、何となく会場中が緊張感に包まれていた。
殿下が着席されると間もなく、学園長が壇上に現れ、説明会の開催を告げた。
説明会では、学園の歴史や学生寮のこと、各学科の特色などの説明をしてくれたんだけど、志望学科をまだ決めかねていた。
特進科。王族や高位貴族のみが、進む事が出来るコース。将来の領主等に向いている。
王族、公爵家、侯爵家、辺境伯家は無条件で進学可能。伯爵家の場合、国納められる税金による格付けが一定以上のもので
成績が優秀な者が進学可能。進学希望者には試験があるそうだ。
魔導科。魔法の教育に重きを置くコース。卒業者には魔導士が多い。
貴族であれば家の格は不問。一定以上の魔力量が必須で、魔法の試験合格が進学条件。
騎士科。剣術等武器をつかった実技に重きを置くコース。卒業者には騎士が多い。
貴族であれば家の格は不問。剣術の試験合格が進学条件。
普通科。座学、剣術、魔法などをバランスよくとれるのコース。卒業者には文官が多い。
貴族であれば家の格は不問。入学前貳行われる試験の成績によりクラス分けが行われるが、学費が払えれば基本的に誰でも進学可能。
淑女科。刺繍、ダンス、音楽等、淑女向けのコース。女生徒のみ。
貴族であれば家の格は不問。女性のみが進学可能。
普通科は授業をバランスよくって言っていたけれど、剣術、魔法の授業はかなり少ない。文官を目指す人向けという気がする。
特進科と淑女科以外は、目指す職業に合わせて、進学するということなのかな。
特に希望が無い場合は、高位貴族だったら特進科で、それ以外は普通科を選ぶのか。
魔導士を目指しているわけではないけど、普通科は魔法の授業少ないし、魔導科かなあ。魔法は結構好きなんだよね。
考えているうちに、説明会が終わった。しまった、後半あまり聞いていなかった。
終了時は最初にトリー殿下がご退場してから、その他の参加者が退場可能になるそうだ。
トリー殿下が立ち上がると、その後方に座っていた、多分特進科に進学予定の人達が立ち上がって礼をした。
トリー殿下の前と後ろを騎士が歩く。最後方の騎士が周囲を見回して、一瞬俺と目があった。
赤褐色の瞳。髪型が違うけどオレンジ色の髪。あ、昨日の騎士だ。
ほんの一瞬、微笑むように赤褐色の瞳を細めた。うわ、格好いい。覚えていてくれたらしい。なんだか嬉しい。手を振りたくなったけど我慢。
そして、そのままトリー殿下の後ろを歩いて、講堂を出て行った。
トリー殿下と騎士達を目で追っていたフローラが、両手の指を顔の前で組んで、夢見るように言った。
「トリー殿下も勿論、素敵だけれど、騎士様って‥‥素敵ね。」
花のようにふんわり笑う。可愛い。
頬をピンク色に染めて、少し恥ずかしそうに言った。
「私ね、騎士様のお嫁さんになるのが夢なの。」
「おお。」
ドキリとして胸の奥が熱くなる。先ほど見た騎士の姿を思い浮かべる。
そうか、騎士って、格好いいよな。思わず、口にした。
「そうだ、騎士になろう!」
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