ずしんと腹に響くミステリです。

他のレビュアーさまがたが熱く語っておられますが、面白いです。一気読みしてしまったというご感想も、うん、うん、だよね! とうなずけます。

物語のテンポが良く、語り口が柔らかで(ストーリーが穏やかと言う意味ではないです)、謎解きは巧みで親切。ときどき謎解きが新たな謎かけになっている作品があるのですが、このミステリは痒い所に手が届くような謎解きになっており、読み手を置いてけぼりにさせません。

舞台は戦後間もない日本。トラウマを抱え復員してきた安居さんが、近隣社会から隔絶された山あいの集落で殺人事件に巻き込まれたことから物語は始まります。その殺人事件の謎が紐解かれていくと同時に彼のトラウマとなっている過去の事件についても明かされていきます。

登場人物たちそれぞれが複雑な過去を抱えています。泥沼の中で必死にもがき、なかには、他を踏みつけて生き延びようとあがくものたちもいます。でも、たまさか沼の上に顔を出せたものも、はるばる広がる泥沼の広さに絶望し、結局は沈んでいく……そんな陰鬱な雰囲気を漂わせる、本格的なミステリです。

この世界観、横溝正史好きにはたまらないのではないでしょうか?

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