他のレビュアーさまがたが熱く語っておられますが、面白いです。一気読みしてしまったというご感想も、うん、うん、だよね! とうなずけます。
物語のテンポが良く、語り口が柔らかで(ストーリーが穏やかと言う意味ではないです)、謎解きは巧みで親切。ときどき謎解きが新たな謎かけになっている作品があるのですが、このミステリは痒い所に手が届くような謎解きになっており、読み手を置いてけぼりにさせません。
舞台は戦後間もない日本。トラウマを抱え復員してきた安居さんが、近隣社会から隔絶された山あいの集落で殺人事件に巻き込まれたことから物語は始まります。その殺人事件の謎が紐解かれていくと同時に彼のトラウマとなっている過去の事件についても明かされていきます。
登場人物たちそれぞれが複雑な過去を抱えています。泥沼の中で必死にもがき、なかには、他を踏みつけて生き延びようとあがくものたちもいます。でも、たまさか沼の上に顔を出せたものも、はるばる広がる泥沼の広さに絶望し、結局は沈んでいく……そんな陰鬱な雰囲気を漂わせる、本格的なミステリです。
この世界観、横溝正史好きにはたまらないのではないでしょうか?
物語に引き込まれた。
ストーリーを追うのに夢中でページを捲る手が止まらなかった。
感情を大きく揺さぶられた。
読了後、喪失感のような寂しさを覚えた。
この作品の最も優れている点は、読者を惹きつけて離さないドラマ性にこそある。
ミステリ小説なので、内容に関して言及することはできない。だがしかし、作品のクオリティに関しては太鼓判を押せる。もしもこの作品を書籍でドンと出されたとしても、私は満足していただろう。お金を払って読む価値はあったと納得しただろう。
例えプロの書いた文芸作品であったとしても、読み終わった時にガッカリすることはある。時間の無駄だった。お金の無駄だった。そう思うことは残念ながらあるのだ。しかしこの作品は、読了後の私に満足感を与えてくれた。読んで損はない。プロの作品に見劣りしない「面白い」が詰まっている。
カクヨムでは文芸作品は評価されづらく、埋もれやすい。これは大きな問題だと思う。そんな中、一読者にできるのはレビューを書いて紹介することぐらいだろう。だから自信を持ってオススメしたい。
「面白いぞ!」と。
戦後まもなくの人里離れた集落を舞台にしたミステリーです。
戦後まもなくならではの人心の荒廃した雰囲気が巧みに表現されていて、独特の暗さが物語全体を支配しています。
主人公は復員兵で、戦中に壮絶な体験に遭い、今も罪悪感やトラウマを抱えています。
その主人公の贖罪と救済が全体としてのテーマであり、濃厚な人間ドラマに引き込まれました。
と同時に、ミステリとしての面白さにも抜かりがありません。
本作での試みは、なかなか大胆不敵であり、キャッチコピーの「奇想のどんでん返し」はハッタリではないと感じました。
人間ドラマの重厚さとミステリーの驚きを兼ね備えた本作、おススメです‼