第8話 返品できない本には理由がありました!!!!!
買ってくるはずだった本を無料で持って帰っていいと言われたのが、申し訳なかったので、私は付けていたネックレスを渡した。一度だけどんな攻撃からも守ってくれるという加護があるとかないとか、宝物庫に眠っていたのを勝手に持ち出したけど、誰も気が付いていない気がする。
カバンの中で動き回っていたカエルを出してあげると、私の顔を心配そうに覗き込んできた。本と私を見比べゲコゲコ鳴いている。人の言葉も分かるカエル。何か秘密がありそうだけど、ミハエルが何も言ってこないのであれば、悪意はない。魔族であればミハエルが気が付くはずだから、カエルの事は密に妖精か何かだと思うようにしている。
「ゲコゲコゲコ」
「大丈夫だよ。店主さんは持って行っていいって言ったし、代金の代わりの物は置いてきたから」
ぴょんぴょん私の足元の周りを跳ねる。早速貰ってきた本を広げる。
十センチにも満たない薄い本。勢いで手に取ってしまったが、『呪いに勝つための本』と書かれていた表紙がヒラリとめくれる。何も書かれていない表紙が出てきた。
内容も解呪に関することではなく、精霊などを呼び出すものだった。
「騙された」
老婆が本を持って帰ろうとするのを止めた理由。本が居たい場所にいるということは本に何かしらの力が宿っていてそれを止めることができなかったのかもしれない。
ページをめくる私の姿を真っすぐ見つめるカエル。
私はパラパラとめくっていて、一つの名前に惹かれた。
「ラジエル」
名を呟くと同時に、眩い光が本からしたかと思うと、一人の青年が姿を現した。
「ラジエルという・・・。やっぱり戻っていいか」
私とカエルを見比べて困ったようにラジエルは眉を寄せた。
「あなたが望んで私の元へ来たんじゃないの」
ページを閉じ、本に戻れない様に試みる。魔物が居れば悪魔もいて天使もいるのかと考えていたら、本から出てきた。
ラジエル、天使の一人、神の神秘を意味している。全てを見聞きし、地上と天界の全ての秘密を知り尽くしているとされている。宇宙の神秘についての知識を一冊の本にまとめた「ラジエルの書」を常に携えていると紹介ページに書いてあった。
それならば私の呪いの秘密も知っている。
キラキラした視線を向ける。心なしかカエルも嬉しそうにラジエルの足元を飛び回る。
ラジエルはカエルを踏み潰すことなくそっと、手に取る。私にカエルを手渡した。
「間違えた。これほどまでに呪いのかけられた人物だとは思わなかった」
「失礼しちゃうわね」
秘密を知る本を持っている天使は人間らしい表情を見せている。天使との面識が初めてだったので、敬意を払うべきか一瞬悩んだが呪いを解くつもりが無いのか、本に戻ろうとして言る。
「失礼を働いたので、帰らせていただきます」
「帰さないわよ」
知恵の書を活用すれば呪いの解き方がわかるかもしれない。簡単にチャンスを手放してなるものか。
老婆は本に関するクレームは聞かないと言っていた。ラジエルの人柄の事を言っているのか分からない。
ふと、他のページを見てみると文字を読むことはできるが口に出せない。私が何をしようとしているのか分かったのか、ラジエルは本を取り上げる。
「ちょっと」
「本に戻りませんよ。呼び出された僕以外の者を呼び出すことはできません。人外の力は世界の秩序が崩れる」
「基本的にってどういう事よ」
「悪用しようとする人は大勢います。この本にはその時々でいる人が違います。たまたま僕が貴方達に興味を持ったから出てきましたが後悔しています」
「貴方達って」
ラジエルは本を閉じカエルと私を交互に見つめた。
「呪いをかけられた人間同士が巡り会ったので気になったのです」
ゲコゲコとカエルはラジエルに何か訴えるように鳴く。私にはカエルの鳴き声としか聞こえない。ラジエルはカエルの鳴き声で何か伝わったのか、不満そうだ。
「僕は天使ですよ。知恵の書・地上と天界の全ての秘密を知っています。ですが運命に関わる事は詳しく話せないのもまた事実」
運命と、天使は口にする。城に入り込んだだけでも謎で、普通のカエルではないと思っていたが、呪いがかけられたカエルときた。骨董店の老婆も変なことを言っていた。
「詳しく教えなさい」
「運命を捻じ曲げる可能性は口に出せないのが誓約なんだ。人は答えを知りたがるがするべき時でなければ世界が崩壊する」
ラジエルは本を広げる。噂に聞く知恵の書。覗こうと試みたが何が書いてあるか読めない。
「人が簡単に読めるものじゃありません。助言をしたせいで、政治が乱れ戦争が起きた。血を流させないために教えたはずなのに、未来が曲がった。僕は何も言いません」
ラジエルはどこか寂し気にカエルに視線を落とす。
「カエルさん、力になれなくてごめんなさい」
「ゲコゲコ」
「ちょっと、私の力になれないことは謝らないの」
ラジエルに対しても多少は呪いが発動する。人間ではなくて天使なので、魔女の呪いの効力は多少減少している気がする。
「僕が間違って貴方達に着いてきてしまったのは謝ります。責任をもって見届けることにします」
「見届けるだけ」
「僕は天使です。人小野世界に介入するのもそれなりの規制があります」
残念。都合よく助けてくれるものだと思っていた。
「何かあれば僕から姿を現します。基本的に邪魔はしません」
「秘密を何でも知っているのよね」
本の中に戻ろうとするラジエルの肩を掴む。私は人に対しては素直になれない。相手を不快にさせてしまっている。そのせいで淑女教育や帝王学の先生を何人も辞めさせている。傷つけたくて発している言葉じゃないのに、呪いのせいで制御できない。
相手は呪いについて気が付いた。
「私の家庭教師になりなさいよ」
「天使に向かって遠慮がありませんね」
「私は二つの呪い持ちよ。今更何に遠慮する必要があるの」
満足にいかない人間関係もてんしならば意味が変わる。
私の考えに賛同するようにカエルもゲコゲコ鳴く。
「分かりました。ただし、何点か禁止項目を作らせてください。
一. 未来について聞かない
二. 誰かを呪い殺す術式などは聞かない
三. 僕の存在は他言しない
細かなところは増えるかもしれませんが基本的にはこの三つを守ってください」
未来を聞かない。知ってしまえば未来が変わる。私の呪いが解けるのか知れればと思ったけど、駄目みたい。
「分かったわ」
新しい教育係、ラジエルの元私は最悪の事態も考慮しながらこれからに向けて準備を始めた。
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