第2話 黒薔薇姫と呼ばないで
見目麗しい父上が結婚相手に選んだのは、隣国で眉目秀麗と名を馳せた姫ではなく、視察地で偶然出会った町娘だった。難産で私を出産したため、他に兄弟を産めない体になってしまった。
魔法の生きている世界で、魔力は絶対で、私は割と魔力量は豊富だった。一度だけあった隣国の姫には「あなたは誰にも愛されていない」と言われ、数年が経ち、父上に惚れていた魔女が、結婚の事実を知りショックを受け性別を変える呪いをかけた。王位継承権のある私に呪いがかけられれば、困り果てると考えた魔女が呪いをかけた。
解呪の方法は、真実の愛を見つけること。父上に愛されたかった魔女のかけた呪いは自身のことを愛してほしいという願いが込められているように思ってしまった。
魔女は姿を消し、私は(冒険者に混じってダンジョンに挑んだ時・城の宝物庫に勝手に忍び込んだ時に)に、変な花瓶を壊してしまい、素直に慣れない呪いがかけられてしまった。
踏んだり蹴ったりとはこのことだよね!!
私が、女になった事を知った王は嘆いた。歴代で女性が即位されたことがないわけではないが、その時の政治がうまく行ったことが少なく、暗黙の了解で男性継承の風潮が強くなっていたからだ。
呪いを受ける間は男であったが、いつ解けるかわからない呪い。国中の解呪師も他の魔女も解けない呪いをかけた魔女の消息を、知るものはいない。生まれ変わった王と結婚したいと意気込んでいるという噂がある。噂の出どころが大変気になるところではある。
呪いをかけられてから、急遽始まった淑女としての教育。
それに加えて帝王教育もあるため、心に余裕がないといえば嘘になる。
こっそり魔物のいる森に入り込み、修行と称して戦いを挑んでいる。王宮にいる奴らは全員気を使って挑んでこない。指導をしている騎士も“女”である私には全力で戦いを挑んでこない。万が一のことがあってはならないからという理由から距離を置かれている。
「いい加減ご自身を大切にしてください」
お目付役も担っているミハエルは遠慮がない。悪役令嬢、正しくは悪役王女と名を馳せている私と本当は関わりたくないだろうけど王命で側にいる。
男だった頃を知っている少ない友人。女になる呪いがかかってからは、前よりもよそよそしい気がする。ミハエルが俺と恋仲になるはずがないのに。本音が話せない呪いがかかっているのも加え、私の呪いが解ける条件が「真実の愛を見つけること」。父上に呪いをかけた魔女が惚れていたからなのか知らないが。心まで変わったわけじゃないから、俺の恋愛対象は女性のまま。
女の姿になって、女性特有のお店に行くこととかはしない。
秘密の花園はそのまま守っていた方がいい。
「剣術を懸命にやることはいいですけど、今は女性なのですから」
「見た目が女なだけ」
力が足りない。国を守るために全力で頑張りたいのに、今の自分では何をするのも、力がない。
「ダンスパティーを開くそうです」
「私に踊れというの?」
呪いを受けてからパーティーで踊らないようにしていた。理由を知らず誘って来る人たちには「私を誘いたかったら、もっと自分を磨いてきなさい」とか「あなたと踊る価値はないわ」とか散々言ってしまって、気がつけば誰も俺を誘わなくなっていった。
王族主催のものに関しては従兄弟に相手を頼むことが多かった。
「神託ではもう時期呪いが解けなければ覚悟しいなければならないと」
俺の目を見ないようにしているのは、私がどれだけ怒るか予想をしている。好き好んで女になったわけじゃない。父上は自分の好いた相手と結ばれた。王族の婚姻が政治的要因が大いに含まれているのを知っていてなお、愛した人を見つけ出した。呪いをかけられた俺に対しても父上は変わらない対応をしてくれていた。
「一生このままって事?」
期限付きの呪いだとは思っていなかった。
「誰もそんなこと教えてくれなかったじゃないの」
己の周囲に魔力の火花が散る。町娘だった母親は魔法が得意だった。俺は母の血を色濃く継いでいるためか、私は魔力量が多かった。
「話せば貴方は本物の恋ができないから、直前まで黙っていたそうです」
ミハエルは悪くない。男の姿の時あらう一緒にいるから私の考えは手に取るようにわかるはずだ。呪いを受けた後も変わらずそばにいる。
「見た目だけは可愛くて可憐なのよ」
私はわざとらしく自分の髪の毛をクルクルいじって見せる。他国の使者が来た時に私を女だと思って口説こうとしてきた輩がいた。ミハエルが撃退することもなく、私のほうから決闘を挑んで返り討ちにしてみせた。
「性格が少しひねくれておりますが」
「誰のせいだと思っているの?」
呪いのせいだと言えれば簡単なのだが、こちらの呪いは、他人に打ち明けられない。
戻れると信じて後継の勉強をしてきた。女王が立つと国が乱れることが多くあり、好まれない。早く元の姿に戻らなければ王位を継いだとしてもすぐに外れる可能性もある。民のために国を良くしていきたいと考えている。それなのに、その夢が叶わないというのか。偉大な父の背中を見てきた。
同じ道を自分も歩みたいと思っていたのに。
「出ていって」
私の周りにはまだ火花の魔力が散っている。散っていても尚、気にする素振りを見せずに俺の傍にいるのはミハエルくらい。
「黒薔薇姫?」
「その名で呼ばないでと何度言ったらわかるの」
ミハエルが私の側近でいる理由。彼には少なからず魔女の血が流れている。
私の暴走する魔力を見ても怯むことも何もない。逆に何かあった時のために傍に控えている。
「癇癪を起こしても決定事項は変わりません。僕だって貴方と結婚する羽目になるのは困りますので、ちゃんと呪い解いてくださいね」
「ミハエルと結婚するくらいならドラゴンと結婚するわ」
異種族間の婚姻は少なからずある。王族は血を絶やすわけにはいかないから、認められにくいだけ。
「同じ言葉をそっくりそのまま、お返しします」
言い捨てるとすぐに、ミハエルはその場から消えた。
「都合が悪くなると、消えるの、やめろ」
部屋に残っているのは私だけで、本物の恋なんて言う目に見えない答えだけが残された。
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