第4話 迷い込んだカエルと、黒バラ姫
城に迷い込んでいたカエルは大人しく私の部屋の簡易的な籠の中にいた。逃げ出してもいいように扉は開けたまま。魔法で本人が望む気温になるように工夫をしていた
犬のように私が部屋に入ってきた瞬間カエルはぴょこんと跳びあがり私のほうに視線を向けてきた。
「お前は犬か?カエルのはずだろ?」
カエルは人間じゃないから、素直な言葉は発せられる。馬に対してもそうなのだが、人間がいると呪いのせいで言葉が伝えられないことがある。
性別が変わるだけじゃなく、周囲に誤解されるような呪いをかけられてしまったことにより、自分に対する評価が落ちている。
視察などに出かけたとて、村長をほめようと思えば「能力のない人間風情が、よく収めていること」と言ってしまったり、綺麗な織物で生計を立てている地域では「着飾ることしかできないのかしら」と言ってしまったり。
私が呪いにかかってしまった事は伏せられているため、婚外子である姫がしゃしゃり出てきて、しかも性格が悪いという噂になっている。
呪いをかけた魔女が見つかることがない。素直になれない呪いはツボを壊してしまったせいで、代わりのものを探しているが見つけられない。魔物の森に聖遺物のツボが隠されているだなんて誰が思う。大切にしていたものを壊されたゴブリンたちに袋叩きにあってしまったのは忘れられない。
「なんだ、カエルすり寄ってきて。本当に犬みたいだな」
爬虫類特有の何を考えているか分からない瞳ではなく、このカエルは、私のことを心配している気が知る。思い違いかもしれないが、俺が呪いをかけられたことによる不安から、母様が何重にもなる結界を城にかけている。悪意あるものは入り込めないので、どこかカエルらしくないが、私に害を加えるモノではないだろう。
「ミハエルに八つ当たりしちゃったけど、どうしてもっと早くに教えてくれなかったんだ」
知っていれば積極的に舞踏会を開いたり、運命の相手を探しに旅に出たりもしたのに。
「最悪ゴブリンのツボの呪いだけでも解けないかな」
女王になれないわけではない。恋愛対象が女性のままの私を娶ってもいいという人を探すしかない。血族は残さなくてはならない。
俺を受け入れてくれる人ならば夫婦にはなれなくとも盟友のように国を支えあえることはできるはずだ。
「カエル、もう一度だけでいいからあの姫に会いたいよ」
私に面と向かってぶつかってきた女の子。悪役王女と揶揄されていた彼女からは、決して悪い雰囲気を感じることはなかった。
本心を隠した会話じゃなくて、信頼のおける話がしたい。悪役と言われている彼女は、ただ本音を隠さず話しているだけ。悪意からではなく思ったままを口にしている。人の顔色を伺いながら過ごしていた俺とは正反対の生き方。
呪いのせいでオブラートに包むことができず、極力会話をしないように気を付けている。
「民のために俺はどうすればいいんだ」
本当の恋を見つけなければ解けない呪い。
目を閉じて浮かぶのは、彼の悪役王女と言われていた人だけだなんて誰にも言えない。最近表舞台に姿を見せていないというのも気になる。
会いたい、彼女のあのあけすけな話を聞きたい。
「カエルは、どうして迷い込んできたんだい?」
手の中で気持ちよさそうに目を細めるカエルは、ゲコゲコ鳴いている。俺を慰めているような風に聞こえる。
「人を好きになるのは、簡単じゃないんだよね」
気が付けば彼女のことが頭から離れなくて、もう一度会いたくて。
本当の恋なのかはわからない。俺が女になっているのを知るはずがない。知ればきっと距離を置かれる。
「もう、今日は疲れたよ」
解呪方法を知っていたのなら教えてくれればいいのにと思ってしまった。
本当の恋なんて簡単にできるわけない。
それなら、本当の姿を知らないで俺は彼女に一目ぼれしてしまった
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