これがラノベ?そう、これがラノベ。

 まず告白します。自分にとってこの作品は「読み易い」と言える物ではありませんでした。

 擬古文的、つまり古い文体を模倣して語られる物語を読み進めるのは、普段から平易な文体に慣れ親しんだ身としてはかなり歯応えが強い。恐らくラノベを求める多くの方がそう感じるのでは無いかと思います。

 しかしそれを乗り越えて内容自体に目を向けると、古代日本のような何処かの世界で展開する濃密なドラマに心を囚われる。

 いや。凄いんですってマジで(笑)

 周囲から隔絶された村と、五百年続く地域信仰。朝廷簒奪と弑逆された帝の側室と遺児。不老不死の月人。

 古代ロマンとファンタジーの要素がこれでもかと詰まっている。

 過酷な宿命を背負った登場人物たちの宿命がマジで過酷。言い間違いではありません。過酷な宿命などと多用されて陳腐になった表現が、本来の意味を取り戻す。それほどに過酷。

 感情移入して涙が出た箇所もありました。

 これらの要素が平易な文体で描かれていれば、ともすると筋書きを追うだけの読書になってしまいまうかも知れない。しかし先に上げた擬古文的な文章がそれを許してくれません。

 流し読みで読んだつもりになる事を許さず、噛み締めながら物語に付き合う事を求められます。

 内容だけを追う読書ではなく、文章そのものが持つ美しさをも堪能する。本当の意味での読書を体験できるでしょう。それが作者の狙いだろうと思います。

 まさに読書の口中調味やで(笑)

 一見難解な文章であるにも関わらず、古い言葉で表現しても理解を阻害すると思われる箇所は、現代的な言葉に置き換えられている。

 古代日本などの予備知識を一切必要としない世界観が設定されていて、身一つでこの世界を楽しむ事ができる。

 「ここは大事な所ですよ」という部分は繰り返し教えてくれる。

 こんな親切なラノベ見たことがありません(笑)

 若い頃は小難しい本に挑み、それを読破した自分が少し賢くなった気分になったものです。

 ここに居られる方々にも、我こそは読書家なりと自認される方はいるでしょう。

 この料理。是非とも御賞味下さい。

 このレビューを読んでもらえるかが既に不安ですが、これが本心です。

 珠邑先生ゴメンナサイ(笑)

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