第4話 違う!これは幼女パンツじゃない!

「ねぇ、母さん……」


 わーはアウラウネの、ましまっし。姉さん達と一緒にダンジョンには行かないけど、母さんを陰ながら支えてるんだ。

 そして、ダンジョンに行ってる姉さん達も支えてる。だって、姉さん達が食べてるお弁当は、わーが丹精込めて育てた野菜なんだもの。


 でも、それらの野菜はこの世界には存在しない野菜で、わーも最初は驚いたよ。だけどそれ以上に、母さんから得られる植物の記憶にはもっと驚かされたんだ。

 まぁ、新しく居候してるアリスはその方法を見て、「あわわわわ」ってなってたから、普通はイヤなのかな?そうしたら母さんも本当はイヤなのかな?

 母さんは優しいからイヤがってないのかな?でもイヤがってたら、あんなに気持ち良さそうな感じにはならないよね?



-・-・-・-・-・-・-



「なぁ、オバサン誰?」


「おっ、オバ?!……ぷっ。あははははっはっはっ。流石ね、山形次郎……それでこそ山形次郎ですね。でも、こう何度も何度も同じ事を言われ続けたら笑うしかないわね」


「オバサン……俺を知ってるのか?」


「えぇ、モチロン知っていますとも。41歳の元日本人で、ラーメンを作りたいのでしょう?」


「ッ?!オバサンまさか」


「超能力者じゃありませんよ」


「なんで、俺が言いたい事まで分かってんだ?」


「さぁ?なんでだと思いますか?」


「やっぱり、ちょ」


「それは違います」


「それじゃ、分かんねぇ。サッパリだ」


「まぁ、山形次郎の事はなんでも知ってると言っておけば、納得出来るでしょう?」


「オバサン……俺のストーカーなのか?」


「ぷっ。ぷーくすくす。まぁ、似たようなモノ……ではありませんッ!でも、いつも山形次郎の斜め上を行く解答には、楽しませてもらってるのですよ」


「ん?俺に会った事があるって口振りだな?」


「えぇ、それはモチロン、何度も何度もお会いしてますよ。そしてその度に濃密なひとときを過ごさせて貰っています」


「そうなのか?なんか……」


「「申し訳無ぇ」でしょ?」


「凄げぇ……。で、俺の事を知ってるオバサンは一体誰なんだ?」


「どうせ起きたら覚えていないのだから、教えてあげません。秘密ってヤツです」


「それじゃあ、一体、何をしにここに来たんだ?これって、夢の中だろ?」


「えぇ、ここは山形次郎の夢の中。今回は、斜め上を行き過ぎた山形次郎に笑わせて貰ったので会いに来ただけです」


「笑わせて貰った?俺……なんかしたか?」


「夢から覚めたら夢での事は忘れてしまうかもしれませんが、それ以外の記憶はあるのでしょう?これに見覚えはありませんか?」


「それッ!俺が握り締めてた幼女パ……」


「幼女趣味が無いなら、その表現は控えるべきでわ?」


「う……う、宇宙パンツだよな?」


「そういえば、そのように名付けてましたね」


「で、その宇宙パンツをなんでオバサンが?」


「これは、「なんでも3次元ポケット」です。アテクシが、山形次郎の為に創って、ご褒美としてあげたモノです」


「それ……オバサンのだったのか?オバサンって、幼女趣味だったんだな?」


「アテクシは最初から履いていませんよ?見てみますか?だからそもそも……って何を言わせるんですかッ!ってか、山形次郎は、アテクシが幼女パンツを履いてたら好みですか?」


「いや、俺に幼女趣味は無ぇし、幼女趣味なヤツを否定するつもりは無ぇが、そもそもオバサンに興味が無ぇ。そもそも、今の俺は女だしな」


「山形次郎……それは、アテクシ的に傷付きます……はぁ……」


「あっ、いやいや、そういうつもりじゃねぇ!オバサンはオバサンなりに魅力的っつーか、履いてないのは流石に俺的にはちょっと……って思うけど、オバサンにもいい相手が見付かるよきっと!」


「それは慰めにもなっていませんが、それでこそ山形次郎ですね。まぁ、山形次郎がアテクシを口説きに掛かるとも思ってませんから、揶揄った挙句に自爆した哀れな……って、何を言ってるんでしょう……はぁ」


「まぁ、オバサンにもその内、良い事あるから気落ちすんなって!」


「まぁ、それは長くなりそうなので置いておきましょう……あれ?そろそろ目覚めの時ですか?まったく山形次郎は人気者ですね。それではまた、会いに来ますね」




「んっ……うぁ……んん……き……もち……いい」


 俺はその声で目覚めた。だから俺の口から漏れ出した声じゃねぇ。とは言っても、俺は娘達に食べられてる真っ最中だ。気持ちいい事に変わりはねぇが、俺以上に気持ち良くなってヨガってるヤツの声で俺は起こされたってだけだ。

 まぁ、誰かは言わなくても分かるよな?最近、この部屋に居候して来たヤツさ。まったく……自分が気持ち良くなる為に、同じ部屋に居候して来たってコトに気付いた時は流石の俺でも正気を疑ったぜ。



「まま、おはよ。今日もお腹いっぱい元気いっぱいで、切り身を集めて来るね!」


「あぁ、皆頑張ってな。期待してるぜ」


「「「「じゃあ、いってきまーす」」」」


 この一連の流れが、俺達が家に帰って来てからの日常になっていた。豚骨トンコッツを始めとした娘達三人と、アリスも一緒にダンジョンで切り身を集めて来てくれてる。その間に俺は切り身節を作り、マシマシマシマッシが新たに作ってくれた植物からラーメンに使えそうなモノをチョイスしていく。


 こうして、家に帰って来てから新たに、蕎麦が完成した。更にはパスタも完成したんだ。そして中華麺を作る為の「かんすい」はマシマシマシマッシが必死に考えてくれてる……らしい。


 その間に俺はスープを完成させるべく、ひたすら悩んでいた。前に考えたソースラーメンなんだが、スープ自体はいい感じだ。ただ、豚カツソースを使っているから味がだいぶ濃い。逆に豚カツソースの分量を少なくすると、味が良く分からなくなっちまう。

 まぁ、ジャンクフード感を求めるなら、多少濃くてもいいとは思ってる。


 でもそうなると、年寄りとか塩分控えないといけないヤツは喰えないだろ?だから俺は、ソースラーメン以外のスープも考える事にしたのさ。



「まぁ、マシマシマシマッシ今、話せるか?」


「なぁに、母さん?」


「そっちに、塩分の出て来る野菜があったよな?」


「うん、あるよ」


「ちょっと試したい事があるんだ。それをこっちに送ってもらえるか?」


「塩分が欲しいの?それなら、わーが塩分の出る野菜を作ってあげる。どんなのが欲しいの?」


「何を言ってるんだ、マシマシマシマッシ。塩分は塩分だろ?一種類しかねぇだろ?」


「えっ?母さんこそ何を言ってるの?塩分は中に入ってるミネラルの違いで、塩分の出て来る野菜だけでも100種類以上はあるよ。でも中には毒性が強いのもあるけど……」


「そんなにあんのか?!まぁそれじゃあ、毒性があるやつ以外で良い感じのヤツをチョイスしてこっちに送ってもらえるか?」


「うん、分かった。毒性が無いのを何種類か栽培して収穫出来たら送るね」


 俺にとって衝撃の事実だった。でもま、言われてみれば確かにそうだよな?博多で取れる塩やら、アンデスメロンみたいな山で取れる岩塩やら確かに色々あるもんな。

 でも、塩に毒があるってのは初めて知ったぜ。



 それから数日後にマシマシマシマッシから送られて来た塩を使って、俺は塩ダレ作りにチャレンジした訳さ。



「えっと、取り敢えず色んな材料をブチ込んでみっか!」


 この時、俺の手元にある切り身節のうち、スープの出汁に使わない切り身節を使ってみる事にした。

 スープの出汁に使う予定なのは、かつおさば、後は名前が分からねぇ白身魚の切り身節をいくつか……だ。


 だから手元に残ってて、今の所使う予定の無ぇ切り身節を塩ダレ用に使って見る事にした。



「これは、秋刀魚さんま……だったよな?あと、これはいわし……だったか?」


 俺は最初、塩ダレって塩を温めてドロドロにするモンだと思ってたんだけど、塩っていっくら温めても溶けねぇのな?だから、水に溶かした訳なんだけど、そうしたら塩水が出来た。って、当たり前だよな?

 流石に塩水を塩ダレって言う訳は無ぇと思って、考えたんだけど、考えれば考える程、訳が分からねぇ。


 こうなったら考えるな感じろの世界だ。だから、塩水に出汁を入れる事を思い付いたんだ。でもそれだと、スープ用の出汁に塩を混ぜても同じだろ?だから、塩水に出汁を入れて、あと調味料を適当にぶっ込んで加熱してみたのさ。


 と……簡単に言ってるけどよ、色々と試して作ったから、試作塩ダレはその甲斐あって、何十種類と増えていった。



「出来た!俺が最初に考えた究極のラーメンスープとはだいぶ違うが、昔、どっかで喰った事のある塩ラーメンっポイスープが出来たぜ!」


「母さん、出来たの?」


「あぁ、マシマシマシマッシ。遂にスープが完成したぜ!後は麺だけだ。どうだ?完成したスープを飲んでみるか?」


「うーん……気になるけど、今は遠慮しとく。母さんが作りたいラーメンが出来た時まで、楽しみは取っておくよ」


 マシマシマシマッシも良い事言ってくれるよな?俺は感動しちまったぜ。こうなれば早く麺も完成させたくなるよな?でもよ、なかなか「かんすい」の謎には辿り着けなかったんだ。



「ねぇ、母さん……。麺の作り方って教えてもらえる?わーもこっちで色々と試してみるよ」


「じゃあ、教えっからちゃんと聞いとけよ」


「はーい」


 俺はマシマシマシマッシに麺の作り方を教える事にした。中華麺は、うどんの麺とは作り方が違う。確かテレビでそんな事を言ってた筈だ。

 そして、何よりも中華麺は「かんすい」の影響で、色が変わるとも言ってた。小麦粉の色が白から黄色になれば中華麺になる準備が出来た証拠……だった気がする。


 で、俺がマシマシマシマッシに教えてる最中に、偶然のような奇跡が起きたって訳だ。



「母さん、それ……前に食べさせてもらった、うどんと色が違うよ?」


「えっ?た、確かに……。あれ?この前と同じ感じで材料入れたんだけどな……って、まさか!コレかッ!」


 俺の手元にあったのは、マシマシマシマッシが送ってくれた塩だった。前に作ったうどんの時とは使った塩が違ってたらしい。まぁ、塩ダレ作る為に送ってもらったのをそのまま置きっぱなしにしてたから、麺の作り方を教える時に間違えて使っちまったみてぇだ。

 だがその結果、俺が捏ねてる小麦粉はみるみるうちに黄色に染まっていった。



「な、なぁ、この塩って、本当に塩なのか?」


「母さん……シオって何?わーが送ったのは、エンだよ?」


「エン?いや、俺は確かに塩分って言ったけど、塩分って言ったら塩だろ?塩はしょっぱいだろ?」


エンはミネラルの塊だよ?確かにしょっぱいのもあるけど、それだけじゃないよ?」


 もうね、俺の頭は理解が追い付いてない。しおと書いてエンと読むとか、エンはミネラルとか言われても、麦茶かよ!みてぇなツッコミしか出て来ねぇ感じだったぜ。

 とは言うものの、偶然ってのは怖ぇモンだよな?あれだけ謎だった「かんすい」は、マシマシマシマッシが送ってくれたエンってヤツで解決しちまったんだから。

 まぁ、未だに「かんすい」が何なのかは分かっちゃいねぇんだけどな……。

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