第8話 顛末

「うちは……」


 うちはとんこっつ。ままの長女。ままに拾われて、ままと一緒に生活して、ままの作ってくれたご飯をいっぱい食べて、ままからもたぁっくさんオドをもらって、こんなに成長したの!


 でも、怖い夢を見ちゃった……。ままが「まま」なんだけど、ままじゃない「まま」になって、だけどうちは、ままだと思ったから、ままにいっぱい気持ち良くなってもらおうと思ったんだけど、そしたらままが、「まま」じゃなかったの!

 初めて感じた気持ちなんだけど、うちがままを食べてる時みたいな声を、うちが出してて、それが凄く気持ちいいんだけど、だけど、うちの中に「まま」が入って来てたから、それが凄く怖かったの。


 凄く変な夢だったんだけど、でも、ままが「まま」じゃなかったのが凄く怖くて……でも、ままじゃなくても「まま」だから、凄く安心してて……そして凄く気持ち良かったの!


 ままじゃない「まま」なんだけど、ままじゃなくても「まま」だったから、凄く変で凄く怖かったの!



-・-・-・-・-・-・-



「まま、起きて……まま。うち、怖い夢を見たから、いいこいいこして。ねぇ……まま、起きてよぉ」


「えっ……?あ……れ?」


「まま、よしよししてよぉ。まま……」


「私は……アナタの「まま」じゃないわ」


「えっ?ままは、うちのままだよ?ままは、ままだよ?なんでそんな酷い事を言うの?」


「姉さん?こんな夜更けにどうしたの?」


「ぱいたん!聞いてよ!ままが、うちの事を苛めるんだよッ!ままなのに、ままが「ままじゃない」って言うの……」


「ねぇ、私は「まま」じゃないわ。そして、アナタの「ママ」でもない」


「ママ?一体……」


「姉さん達、ここから先は女神様が説明して下さるみたいよ?ねぇ、女神様?」


「「えっ?女神様?」」


「残された者達に最後までちゃんと説明をする事が、望みの終着であるのなら……そうすべきですね」


「女神ラ・メン……ジロウをどこにやったの?」


「まま……がもしかして、アリ……ス?」


「えぇ、ちゃんと説明します。山形次郎が何を望んだのか……」




「——山形次郎は心を擦り減らしていたのです。ここより遥かに遠い世界で人間として生き、そしてその生活に因って山形次郎の心身は摩耗した結果、全ての物事から目を背けなければ精神を保っていられなかったのです」

「そして、その結果……この世界に流れ着いてしまった」


「ジロウは元の世界で死んでから、ここに転生したって事よね?それなのに……どうして?ジロウは元の世界に戻ったの?でも、ジロウのマテリアルは既に失くなっている筈でしょ?そんな状態で元の世界に戻せば、ジロウの精神も死んでしまうわ」


「アリスシード……いえ、今はクレアリスでしたね。姉さんみたいに自分勝手に話しを先に進めようとしないでもらえますか?それにクレアリスのように話しを全て分かっている者しかいない訳ではないのですよ?」


「ぐっ……」


「逸れましたね。元に戻しましょう。——元の世界から逃げ出すようにこの世界に流れ着いた山形次郎は、ラーメンに固執していたでしょう?」


「うんッ!ラーメン造るって、ままは頑張ってた」


「山形次郎は、何かを一つでも成し遂げたかったのです。元の世界では何一つとして成し遂げる事が出来なかったからかもしれません」


「ラーメン……出来たの?」


「姉さん達と、わんたん……母さんが皆に残してくれた物があるから、今から作ってそっちに送るね」




ことっ

 ことっ

  ことっ


「「「これが、ラーメン?」」」


「ちょっと、ましまっし!私の分は無いの?」


「仕方無いなぁ……待っててアリス、今から作って来るから。三人は先に食べてて」


「「「いただきまぁす」」」


ちゅるッ


「「「ッ?!」」」


ちゅるちゅるちゅるッ

 じゅるじゅるずずずーッ

ちゅるじゅるずるちゅるじゅるじゅるずるずるずずずずずーッ


「「「ぷはぁッ」」」


「えっ?えっ?三人共、食べるの早過ぎない?」


「アリスも食べてみれば分かるよッ!」


「もぅッ!私の分はいつ出て来るのよーッ!」


ことッ


「お待たせ、アリス。熱いうちに召し上がれ」


「これが、ジロウの作った「らあめん」……」


ちゅるるッ


「えっ?!嘘……何コレ……?」


がばッ

じゅるるずるるるじゅるじゅるじゅるッ

 ずずずず……じゅるるじゅるるずずずずー


「何なのコレ?止まらない止められない?!もっともっともっと!身体が「らあめん」を欲しがっ?!@#$%&*☆¥※〒……いててて」


「話しながら食べるから舌を噛むのですよ?行儀が良くないそういう所も姉さんにそっくりで困った感じですね……」




「母さんが作り上げたラーメンはどうだった?」


「ねぇ……ままは、ままは……どこに行ったの?」


「山形次郎が叶えた望みは、元の世界に戻る事。この世界でラーメンをゼロから創り上げた事が自信に繋がったでしょうから、元の世界に戻っても心身を摩耗しなくて済むかもしれませんね」


「ちょっと待ちなさい!ジロウはとっくに死んでるのよッ!元の世界に戻った所で、それは死にに帰るようなモンじゃないッ!まさかッ!それを分かってて殺したの?」


「えっ?まま……死んじゃった……の?」


「まぁ、喰い付いてくるのは想定内です。だから正直に申し上げますと、アテクシが山形次郎から承った望みは、クレアリスの身体をアリスシードに返す事……です。だから結果として元の世界に戻ったのです」


「えっ?ジロウが、私に身体を……」


「えぇ、だから山形次郎のアストラルは結果として元の世界に戻る事になりました。元の世界に自分の身体があると信じていたのかもしれませんね。でも、アテクシもバカではありません。そのまま返せば、山形次郎は宛もなく幽霊のように彷徨う事は容易に想像が付きます。だから……」


「元の世界に転生でもさせたの?」


「そんな事はしません。転生させたモノを再度転生させれば、アストラルがバグりますから。だから、山形次郎の時間を戻す事にしたのです」


「時間を?」


「えぇ、何かを成し遂げる事が出来た山形次郎は、同じ未来に向かって進む事はしないでしょうから、時間を戻し身体を失う前の状態にしたのです」


「でも、うちはままに会いたい!」


「とんこっつ……ジロウは幸せになったのよ?それなのに、またこの世界に呼び戻したいとでも言うつもり?」


「うちは……うちは……」


「1つだけ方法があります。もしも豚骨トンコッツちゃんがどうしても山形次郎に会いたいならば、叶うかもしれません」


「ホント?どうすれば、ままに会えるの?」


「女神の力を使えば……女神に頼めば可能性はあります」


「じゃあ、女神様!お願いします!ままにもう一度会わせて下さい!」


「それは無理ですね」


「ええぇぇぇぇッ!女神様に頼めば平気だって言ったじゃない!女神様の嘘つきッ!」


「女神様、女神像を探せ……と言う事ですね?」


「えぇ、流石アウラウネ。慧眼ね」


「女神……像?あっ!ままが手に入れたお宝!」


「えぇ、そうよ。あの女神像は専用装備ではなくて、手に入れた者にのみ使える専用アイテム。だから女神像を手に入れられたら、再び女神の力を使う事が出来ます」


「分かった!うち、女神像を探す旅に出るよッ!この世界中にあるダンジョンを1つ1つ攻略して、女神像を手に入れれば、ままにまた会えるんだよね?」


「えぇ。可能性は低いかもしれませんが、ゼロではありません」


「分かった!なら、うちはダンジョンを攻略するッ!」


「それなら、姉さん一人に任せられないから、わちきも付いて行ってあげる」


「ありがと、ぱいたん」



「姉さん達……申し訳無いけど、わーは付いて行けない。わーは戦闘には向いてないから……。それに、母さんに任された畑を守りたいから御庭番を続けていこうと思う」


「うん、それなら仕方無いよ。ままがおっさんに言って作ってもらった畑を頼むね、ましまっし!」



「なぁ、アリス……あたいを雇うつもりはないか?」


「「「「わんたん?何を言ってるの?」」」」

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