第2話 実録!イチゴパンツの謎を解け

「やっぱり、バカなのね……」


 私の名前は本編で確認してね。それにしても、私ってなんて不幸な女の子なんだろう……。

 まぁ、ちょっとトラブルメーカーだったのは認めるし、パパが私はお転婆だって言ってたから、それも認めるけど……。でも、それにしてもだよ。

 なんて、私って不幸なんだろう。


 私も王家の一員ってのはあるけど、同年代の友達と色々な話しもしたかったし、素敵な王子様に恋い焦がれてた時期もあるのよ?

 まぁ、実際に友達なんていなかったけど……。


 それに、パパとママに隠れてちょっと男の子の気を引けそうな下着を集めたり、色んな妄想をしてたりとか……って、何を言わせるのよッ!!

 私はそんなに、破廉恥な女の子じゃないもんッ!



-・-・-・-・-・-・-



「ただいまー!まま、見てみて!新しいコムギが出来たから、早速コムギ粉にしてきたよ」


「えっと……まま?えっ?あれはレッドオークよね?私、まだヴァージンだった気がするんだけど、なんで子供がいるの?それにレッドオークって事は、相手はレッドオークなの?」


「ママ!色々な野菜を取って来たよ。これで作れるお弁当のバリエーションって何かある?」


「えっと……ママ?えっ?あれはどう見てもコカトリスよね?レッドオークに続いてコカトリスとも子供を作ったの?私、それじゃあまるで、はしたない女じゃないッ!」


「お袋!腹減った!」


「あの……さ。子供が全部で何人いるの?」


「そうだな、全部で4人だ」


「あぁ、なんとなく分かったわ……。まったく紛らわしい!要するにその身体から産んだ訳じゃねぇなくて、名付けをしたのね?」


「ねぇ、まま。新しい妹?フェアリーかな?初めて見るよ!」


 まぁ、当然こうなるよな?俺の目の前にいる羽の生えた小っちゃいのが、本当のクレアなら、そりゃ当然そうなるのは分かる。誰ともヤった事のない清い身体なのに、知らない内に気付いたら子だくさんなんて、普通は信じられねぇよな?

 まぁ、俺からしたら、この状況がそもそも普通じゃねぇと思うんだけど……。



「で、お前は本当にクレアなのか?」


「そうね。その身体の持ち主だったのは確かよ」


「持ち主だった?どういう事だ?」


 ここからクレアの語りが始まるんだが、長ったらしいから割愛させてもらうぜ。俺としてはクレアから聞いた事を全部話してもいいんだけどよ、なんか大人の事情ってヤツらしいから、端折はしょるけど勘弁してくれ。

 ただ、要点だけは纏めておくとだな、クレアはどうやら死んだらしい。新しい魔術を試していたらキドだか、クドだかが暴走して死んじまって、そのまま気付いたら、この小っさい姿になってたそうだ。

 まぁ、気付いたのはさっきらしいけどな。


 ちなみに新しい魔術ってのが、俺が剣を持つと殺気に惹かれて殺人マシーンになっちまう、あの魔術らしいぜ。



「私が死んだ直後にアンタが、死んだばっかりの私の身体に乗り移ったってコトよね?で、そうしたら、アンタの身体はどこにあるワケ?ちゃんと保存してるの?」


「いや、そもそも俺はこの世界とは別の世界に生きてた人間だぜ?だから、身体がどうのこうの以前に元の世界に戻る方法すら分からねぇよ」


「そう。じゃあ、アンタの身体はとっくに亡くなってるのかもね。で、話しは変わるけど、アンタは一体何者なの?」


「俺か?俺は山形次郎だ」


「ヤマガッタジローウ?何それ、ぷぷぷッ!へ、変な名前ね」


 人の名前を聞いた挙句に、その名前が変な名前だって言われたのも、笑われたのも初めてだぜ。でもってそんな事を言われると、それなりにショックなモンだな。

 俺としては「山形次郎」って名前は、最近流行りの、キラキラネームだとは思わねぇんだが、まさかこの世界じゃ、キラキラしてる名前だったりするのか?なんて、真剣に考えちまったぜ。



「俺の名前は、ジローウじゃねぇ。ジロウだ。で、お前はクレアでいいんだよな?」


「ジロウ?ジローウじゃなくて、ジロウね?ん?私の名前?クレアリスはその身体の名前でしょ?」


「いや、意味が分からねぇよ。この身体の名前はクレアリス?じゃあ、お前はクレアじゃねぇのか?」


「私は死んでこの姿になったんだから、クレアリスではないわ。それに本来であれば、この姿のままこの世界に来る事は出来ないのよ」


「ああぁ、意味が分からねぇ。じゃあ、お前の事はなんて呼んだらいいんだ?」


「私の今の名前は、「アリスシード」よ」


「母さん、おそらく王家に連なる女性は、死んだら魂を拘束されるんだと思う。だから、母さんの身体にあった魂がそのフェアリーって事で、今その魂はアリスシードアリスの種って事なんだと思うよ」


「へぇ、博識ね。蔓だけしか見せていないアナタはアウラウネかしら?」


「えぇ。母さんの三女よ」


「長女がレッドオーク。次女がコカトリス。三女がアウラウネ。四女がミノタウロスってところかしら?それにしても、よくもまぁ他種族にここまで懐かれるものね」


 なんか、クレア改めアリスシードは変な風に感心している様子だ。俺としてはコイツらが娘になったのは、不純な動機だった気がしなくもないが、今になったらそんな事は気にしてねぇし、現状は大切な家族としてしか見てねぇのは事実だ。



「で、ジロウは私の身体を使って何をする気なの?私の身体は一応、王位継承権を持ってるから、事の返答次第じゃタダで済ます訳にはいかなくなるんだけど?」


「俺は、ただ旨いラーメンを作りたいだけだ」


「ラ・メン?隣国の女神を作るの?何を言ってるの?神を作るなんて、そんなの出来る訳ないじゃない!」


「いや、そうじゃねぇ。その、ラ・メンって女神だかなんだかは関係ねぇ。俺が作りたいのはラーメンだ。ら・あ・め・ん!最高に旨い飯だッ」


「ふぅん。で、その「らあめん」が、最高に旨いかどうかは置いといて、それを作ってどうするつもり?まぁ、今代の女王陛下は食欲が理性を凌駕してるから、それが本当に美味しければ、ある程度の地位は貰えるかもしれないけど……まさかッ!ジロウはもしかしてこの国を乗っ取るつもりなの?」


「俺は国にも政治にも興味は無ぇ。それにそんなモンを乗っ取っても貰っても何も出来ねぇ。だからいらねぇ。俺はただ本当に旨いラーメンが作りたいだけなんだ」


「まぁ、いいわ。それならそういう事にしといてあげる。でも、その身体には婚約者がいたでしょう?ケイルファート王子だったわよね?ジロウはその王子と結婚させられるのよ?そうなれば晴れて正式な王族……国政に絡まなきゃならなくなるわ。それでもそんな悠長なコトを言ってられるの?」


「それは大丈夫だ。ラーメンが完成して、女王サマが旨いと認めてくれたら、結婚相手を俺が決めていいって約束してある」


「ん?そなの?王家に連なる女性は、王家かそれに近しい男性以外とは結婚出来ない筈なんだけど?本当に女王陛下がそんな事を言ったの?」


「おう。立体的に交代所を設けてくれるとかなんとか……言ってたからそういう意味だろ?」


 俺が女王サマから聞いた条件をアリスシードに伝えた訳なんだが、それを聞いたアリスシードの顔はみるみるうちに青くなっていっちまった。



「ねぇ、聞いていい?」


「あぁ、何をだ?」


「ジロウってバカでしょ?」


「ばッ?!おいおいおい、俺は41歳でそれなりにガクもあんだぜ?そんな大人に向かって、バカは言い過ぎじゃねぇか?」


「はぁ、やっぱりバカなのね……。いい?女王陛下の事だから、食欲に釣られて、「それが本当に美味しければ、立太子させて皇太女とする」とか言ったんじゃないの?」


「そうだ!その通りだぜ!アリスシードお前……頭いいんだな」


「ねぇ、その立太子とか、皇太女とかの意味を分かってるの?」


「いや、だから、俺が気に食わない男ならチェンジ出来るって事だろ?」


 なぁ俺さ、さっきからアリスシードの目が怖ぇんだわ。人を小馬鹿にしたような、憐れむような目で俺を見てるんだけど、なんかそんな目で見られたら、俺がなんかとんでもない間違いしてたような気になるだろ?

 なぁ、俺ってなんか間違えてたのか?



「やっぱり、バカなのね……はぁ。知恵の足らないジロウに教えておいてあげる。立太子ってのは、王位継承権一位になるって事で、皇太女ってのは、次の女王になるって事よ。要するに、結婚相手云々の話しなんて、これっぽっちも関係ないわ」


「な……なん……だと?!それじゃあ何か?ラーメンが旨かったら俺が女王になんのか?」


「そういう事ね。でも、それ以前に、女王になりたい人……現状で上位の王位継承権を持ってる者達から、生命を狙われる可能性だってあるわね」


 衝撃の事実だった。俺が生命を狙われる?いやいやいや、そんな御大層な身分じゃねぇよ。

 俺はただ、旨いラーメンを作りたいだけだ。それだけなのに、なんでこんな事になってんのか、サッパリ分からねぇよ。



「ま、私は死んだ身だし、今更クレアの身体に未練がある訳じゃないけど、それはそれでなんか面白そうね?だから、うん。面白そうだから、ジロウが女王になるかどうかだけは、見てみたいわ。なんで魂の輪廻から外されたのかよく分からないけど、こうなったら結果を見なきゃ、おちおち転生も出来ないわね」


 俺にとっちゃ、よく分からない事だらけの、アリスシードの言葉だったが、そんな事を考えてる余裕なんか無ぇから取り敢えず、聞き流す事にした俺だった。



「ところでさ、お前の名前がアリスシードだってのは分かったから、アリスって呼んでいいか?」


「えっ?!べ、別にいいけど……」


「じゃあ、アリス。1つ教えてくれ」


「な、何かしら?」


「なんでアリスはイチゴパンツを履いてるんだ?」


「へっ?イチゴパンツ?何それ?」


ぺろッ


「コレだよコレ!コレ、苺だろ?」


「な、ななな何すんのよッ!この変態ッ!」


ばっちーーーん


「痛ててて。なんだよ、急に叩く事はねぇじゃんかッ。それに俺に幼女趣味は無ぇ!」


「アンタ!中身は男なんでしょ?!なんでスカート捲られて怒らない女がいないと思う訳?これでも、私はれっきとした女なのよ?女である事に、幼女も年寄りも関係ないわッ」


「あぁ、そう言えばそうだったな。りぃ」


「まぁ、そういうデリカシーが無いのは駄目だと思うわよ?って、まぁ、私が元私の身体に怒るってのも変な感じなんだけど……。で、このパンツの柄がイチゴとか言ってたわね?それがどうしたって言うのよ?」


「あぁ、俺がこの世界に住んでた時に見たモノは、この世界じゃ何一つ無ぇんだ。だけど、その苺だけは俺が前にいた世界であった果物なんだよ。だから気になったのさ」


「ねぇ、母さん。母さんが言う、そのイチゴとかいうのは、この国の王家の紋章だよ?だから、果物じゃないよ」


「流石にアウラウネは分かってるのね。そう。これは王家の紋章であって、果物じゃないのよ」


「そ、そうなのか……なんだ、俺はてっきり、この世界にも俺の生まれた世界と同じ食べ物があるのかと思って、ちょっと嬉しかったんだけどな……」




 さて、そろそろ本題に戻そうか。こうして俺達の仲間(?)としてまた一人、加わったって事だ。まぁ、今までとは違うのは、アリスには名付けをしてねぇから娘じゃねぇし、俺としては食べられる心配は無いって事だな。

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