第6話 こけしから始まるラン・デ・ブゥ

「ジロウ……説得力無いわよ?」


 私の名前はアリスシード。こう見えて産まれたてのほやほやで、ピチピチお肌は珠のようでしょ?

 でもでも……なんか私、最近変なの。気持ち良い事を凄っごくしたくなって、シたくなったら気持ち良くなるまで自分を抑えられないの。

 変……よね?


 確かに、私がクレアリスの時は気持ち良い事に凄く興味があったけど、でも、そんなに破廉恥な事をした事はなかったんだよ?

 自分でちょっと触るくらいで抑えてたのに……今じゃもう、頭の中が真っ白になるくらいに気持ち良くなるまで、誰かに触って欲しくなっちゃうの……。


 私、変だよね。でも……これもそれも全部、ジロウがいけないのよッ!うん、そうに決まってるわッ!

 私だった身体で、あんなに気持ち良さそうな事をしてるんですもの。あんなの見せられたら、私だって抑えられないよ。

 だから今日も私は、私を気持ち良くしてもらう為に、ジロウの娘達にちょっかいかけてやるんだからッ!!



-・-・-・-・-・-・-



「ねぇ、ままッ!何かが来るよッ」


「お袋、とんこっつ姉さんと、あたいの後ろにッ!」


 俺には正直なところ、2人の言ってる意味が分からなかった。だが、戦闘民族化してるコイツらの言う事を聞かない理由はねぇから、取り敢えず俺は後ろに下がった訳だが、俺の周りには白湯パイタンとアリスが護衛のように周囲を警戒してくれてる。

 なんか、テレビで見た事があるVIPブイ・アイ・ピーに取り憑いてるSPみたいで頼もしく思っちまったぜ。あれ?それ取り憑いてるだとなんか幽霊みてぇだな。



「ところで、何が来るってんだ?」


「ママはどうやら、とんでもないのを呼んだみたいよ?」


「へっ?俺のせい?」


 本当に意味が分からねぇ。俺はただ部長部屋でこけしを拾っただけだぜ?それとも何か?「包丁の方が良かった」なんて言ったから、部長が本気マジになっちまったとでも言うのか?

 でも、サドだかシドとか言う魔力的なモノなんてサッパリ分からねぇから、みんなが感じ取ってるモノは俺には分からねぇんだ。

 頼むから可視化見える化してくれねぇかな?ディスクロージャーだか、プロパガンダだかマニフェストだかでもいいから、ちゃんと目で見えるようにしてもらいてぇモンだよな?



「この波動はモンスターじゃなさそうだけど……でも、この膨大な魔力量はモンスターの比じゃないわよ。最悪の場合、ジロウは私がなんとかするから、ぱいたんも2人に協力して参戦して」


「分かった。その時はアリス……ママを頼むね」


「あっははははははははは。あーっはははははははは。流石ね、山形次郎。それでこそ、山形次郎ですね」


 まぁ、こうして臨戦態勢全開になった戦闘民族達なんだが、みんなが警戒してたソイツはなんか拍子抜けする程の高笑いと共に現れたのさ。俺の名前を連呼しながら……。



「えっと……オバサン……誰?」


「駄目よジロウ!オバサンにオバサンなんて言ったら!いくらオバサンでも、そこはオネーサンって言わないと傷付くわッ!それに得体の知れないオバサンがキレ出したら、手に負えないでしょ?」


「そーゆーモンなのか?分かったよ、アリス。オネ……」


「最初から全部聞こえてますよ?全く……そう言うのは、本人に聞こえないように言うものではないかしら?だから今更オネーサンなんて言っても意味はないわ、山形次郎。せめて、オネーサマなら許してあげなくもないけど?」


「で、オバサン誰なんだ?」


「ぷっ。ぷはっ、ぶはははははは。あはッあはッあはッ。もう、相変わらずですね、山形次郎……。いつ会っても斜め上を行くその姿勢、アテクシは嫌いではないですよ。むしろ好き」


「えっと……俺の事を知ってるのか?いや、その言い方だと、何回か会った事があんのか?俺……全く覚えてねぇわ。それに告白されても俺は女だしな。なんか……」


「「申し訳無ぇ」でしょ?」


 俺は金属バットで殴られたような衝撃を受けていた。いや、実際に殴られた訳じゃねぇぞ?勘違いすんなよ?だが、それと同じくらいの衝撃だった訳さ。何故なら目の前のオバサンが、俺の心を読める超能力者だと思ったからだ。



「オバサン……ちょ」


「超能力者ではありません。ただの女神です」


「ちょ、ちょっと待って!「女神」って?まさか、アンタ……」


「アテクシの名前はラ・メン。この世界に存在する5人の女神の内の1人。美と食を司る女神、ラ・メンと申します。山形次郎もちゃんと覚えておいて下さいね」


 おいおい聞いたか?女神だってよ?それに自分から「美」を司るとか言ってたよな?いや、まぁ、確かに綺麗だとは思うぜ?でも、俺からしたらオバサンなんだよ。

 だからなんて言うんだっけか?えっと、美魔女?いや、それだと女神じゃねぇし、魔女って言ったらなんか頭が凄く大きそうな感じで、名前とか奪っちまう力とか持ってたりしそうだけど、まぁ、いっか。



「アテクシは、貴女達と敵対するつもりはありませんから、武器を納めて頂けると助かります。豚骨トンコッツちゃんに、白湯パイタンちゃんに、ワンタンちゃん。そして、アリスシード……」


「うち達の名前をッ?!」


「どうやら本当に女神なのは、間違いなさそうね……。でも、ここは美食の国・ウィスタデヴォンよ?隣国で崇め奉られている女神が一体何の用?宗教の勧誘なら、お断りよッ」


「全く、流石はアリスシード……。姉さんそっくりで……人の話しを聞かないじゃじゃ馬ね」


「姉さん?えっ?どう言う事?」


「まぁ、そんな話しはどうでもいいでしょう?山形次郎も聞きたそうじゃありませんし、山形次郎が聞きたい話しにしませんか?」


 いやいや、何故、俺に話しを振るんだ?とか突っ込みを入れたい気持ちになりながらも、俺は取り敢えずアリスの会話には興味がなかったから、一先ず首を縦に振ったんだ。



「なぁ、オバ……オネ……いや、女神さん。俺とどこで会ったんだ?」


「えぇッ!?そんな、いつもあんなに濃密な時間を過ごしていたのに、忘れてしまったと言うのですか?アテクシの事は遊びだったのですか?しくしくしく」


「ジロウ?ホントなの?」


「ままは女神様と遊んでたの?うちも一緒に遊びたい!」


「ママ?遊びで女の人を泣かせたの?」


「お袋!あたい、お腹空いた」


 取り敢えず、アリス。お前は騙されている。

 取り敢えず、豚骨トンコッツ。お前は勘違いをしている。

 取り敢えず、白湯パイタン。お前は素直に考え過ぎだ。

 取り敢えず、ワンタン。お前はお前らしくていいと思う。



「ああぁッ!ホントに分からねぇよッ!それに俺は遊びで女と付き合った事なんて無ぇし、そんな濃密な時間を過ごしてたんなら、記憶に残らない訳ねぇだろ。俺が覚えてねぇなら、ベロンベロンに酔っ払ってたか、夢見てた時……くらいしか」


「えぇ、いつも夢の中にお邪魔していましたから。でも、酔っ払ったり、夢の中でなら遊びで女と付き合うとも言い換えられますね?」


「揚げ足取りは良くねぇと思うぜ?それに、今の俺は女だ。歳は15。酒は飲めねぇから、ノーカンだ!」


「ジロウ……説得力無いわよ?」


 まぁ、そんなこんなでこれが、俺の記憶に残る女神……ラ・メンとの出会いだった訳だ。で、このままダラダラと話しが続くかと思いきや、立ち話しもナンだから、ワンタンが腹減ったって事に話題をすり替えて、そのままそこでお弁当タイムにしたのさ。



「なッ何これ?凄く美味しい!大地のマナが直接舌の上から喉を通り抜けて、身体中に響き渡って来る!そして、このモンスターの力の結晶。こんなに美味で食べても食べても飽きが来ないなんて、凄過ぎます!」


「たくさんあるから、頑張ってお前達も食べろよ。そうじゃないと、全部女神さんに喰われっちまうぞ」


「はぁい、まま。うち、頑張って食べる」


 日頃からみんなと一緒にダンジョンに行ってなかったから、俺としては娘達と食べる昼飯はちょっとワクワクしてた。だけど、今日はそこに女神さんが一緒で、その女神さんの喰いっぷりは思った以上に激しい。

 身体を震わせ、身悶えながら一心不乱に食べまくってる女神さん。それに負けじとこの中で1番のホルスタインを暴れさせながら貪り喰うワンタン。

 豚骨トンコッツ白湯パイタンも頑張って食べてはいるが、2人の食事風景からするとイマイチ迫力に欠けるし、この中で1番小さいアリスはお弁当を一口入れる度に恍惚とした表情になり、身体をヒクつかせて痙攣を起こしながら食べてる。

 だけど、マシマシマシマッシ以上に貧相だから揺れるモンは何も無ぇ。いやいや、俺は幼女趣味じゃねぇから、その表現は蛇足だったな。

 でもま、一見すると毒を盛られてる感じにしか見えねぇんだけど、コイツ……大丈夫か?


 そして俺はそんな光景を見ながら、食事が終わったら何を話そうか考えてたんだ。




「で、本題に入ってもいいかしら?」


「アリスシード……貴女が言いたい事は分かるわ。でもそれは、今ここで話す事ではないわ」


「じゃあ、何を話したいワケ?」


「アテクシは山形次郎に呼び出されました。だから先ず、山形次郎がアテクシを受け入れてくれるかで、話しは変わるのですよ」


「えっ?俺が呼んだの?呼んだつもり無ぇんだけど?」


「貴方がここで手に入れた女神像の力で、アテクシはこの地に降臨したのです。その女神像はこの世界に5人しかいない女神の一柱を召喚する為のアイテムで、山形次郎とアテクシは縁があった為にアテクシが呼ばれたのでしょう」


「へぇ……この「こけし」がねぇ?神さまを呼び出すアイテムだったとは知らなかったぜ」


「こ、こけッ?!……ごほん。では、山形次郎よ。アテクシが汝の願いを何でも叶えて進ぜよう。望みを言うが良い」


「俺の望み……んー?無ぇな」


「はぁ?」


 望みが無ぇって聞いた女神さんの顔は、凄げぇ感じになってた。これが俗に言う変顔ってヤツかな?その顔は俺を笑わせに来てるとしか思えなかったくらいだ。



「ちょ、ちょちょちょ、貴方はラーメンを作りたいんでしょう?それをアテクシが叶えて差し上げると言っているのよ?」


「いや、それは俺の望みじゃねぇ。俺の宿願だ。だったら、俺自身の力で叶えねぇと意味が無ぇ」


「それなら、貴方が悩んでいた「かんすい」をアテクシが差し上げてもいいのよ?」


「その「かんすい」はちょっと前に解決したから、もう大丈夫だ」


「それなら、日本に戻して欲しいとか……」


「今、日本に戻ったらラーメンが最後まで完成しねぇから、イヤだ」


「じゃあ、男に生まれ変わりたい……とか?」


「俺は今の生活に不満は無ぇぜ?性別なんざ女だって、男だって関係無ぇ」


「ねぇ……何か望みの1つや2つくらい、あるでしょ?ハーレムを作りたいとか……望んだりしない?」


 変顔から一転して、なんかもう気の毒な程に涙目になりつつある女神さんなんだが、望みが無ぇ以上、無理に叶えてもらう必要はねぇよな?

 ってか、女神さんの口から「ハーレム」とか言われると、「おいおい女神さま的にそれってアリなのかよ?」とか聞きたくなっちまったけど、そんな事を聞くほど無粋じゃねぇぜ。



「そうだな、その望みを叶えねぇと、女神さんはどうなんの?」


「ッ?!アテクシは……召喚された以上、望みを叶えないと……おうちに帰れない……」


「ねぇ、ジロウ……家に帰れないのは流石に可哀想……よ」


「えっ?そうなの?俺は公爵プリンセス家に帰ってねぇけど、可哀想だとは思ってねぇぜ?‒‒そうだ!女神さん、家に帰れねぇなら、俺ん家来ねぇか?幾らでも部屋が余ってるから、俺の望みを叶えてくれるまで、俺ん家に泊まっていけばいいよ」


「えっ?いや、山形次郎……貴方が望みを言ってくれれば早いんだけど……」


「ラ・メンさま、ままもそう言ってるから、うちに遊びにおいでよッ」


「家に帰れば、旨い飯もあるから、女神様も泊まっていけばいいんだよ」


「えっ?いや、でも……アテクシはアテクシの家に帰りたいなぁ……なんて……」


「よっしゃ!そうと決まれば、女神さんも居候確定だな。今日は豪華な晩飯にすっか!!」


「えっ?ホントに?豪華な晩ご飯……何かしら?‒‒はっ?!いや、違ッ!アテクシは家に、家にーーーーーッ」


 そんなこんなで、俺ん家の二人目の居候は、家に半ば強制的に連れて行かれる事になった訳さ。

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