第5話 こけし……いや、こけし……なのか?

「じゃ、開けるぜ……」


 俺だ。山形次郎だ。41歳のおっさんだ。15歳の女の子の身体に入ってから暫く女の子やってる内に、色々と身体の方は開発が進んじまったけど、それはそれで気持ち良いからいいかと割り切ってる最近だ。


 ってかさ、今まで本当に色々とあったよな?俺的には日本人だった頃には考えも付かなかった事が毎日のように起きてる。でもな、今……こうして思うと、こんな滅茶苦茶な生活でも俺は悪くないと感じてるんだ。


 日本人だった頃は、ただ仕事に行って、帰ってきたらテレビ見て、死んだように寝て……の繰り返しだったから新しい発見なんて何も無かった。

 当時の俺に妻と子供はいたが、2人の事を見るよりも、テレビを見てる時間の方が断然長かった。そんな俺が今じゃ、テレビなんて無い世界で娘達と楽しく暮らしてる。


 こんな生活も悪くないモンだなって、考える事なく感じられる毎日って最高だったんだな。



-・-・-・-・-・-・-



「ままッ!ままままままままままーーーーーッ!!」


「おかえり豚骨トンコッツ。ところで、そんなに慌ててどうしたんだ?」


「ママ、大興奮のとんこっつ姉さんに変わって、わちきが話すわね?」


「あ……あぁ、白湯パイタン……って、お前もどうしたんだッ?!」


 慌てふためいた様相で帰って来た豚骨トンコッツに、一見冷静な白湯パイタンだが、見た目がなんかそうじゃない感じにしか見えない白湯パイタン……いや、白湯パイタン……お前、服どうしたんだよ?とか突っ込みたい気持ちを抑えて、俺は白湯パイタンの小振りな双丘をマジマジと見詰めちまってた。



「ぱいたん姉さんは、モンスターから攻撃貰っちまって、服が溶かされちまったんだよ。あたい達の装備と違って、ぱいたん姉さんの服はモンスターから攻撃されると溶けちまうからさ」


「あ、あの……ママ……。そこまで凝視されると、わちきも恥ずかしい……だから、そんなに見詰めないで……」


「あ、あぁ、すまねぇ。で、みんな見慣れねぇ新しい装備があるな?50階を攻略出来たのか?」


「そうなんだよそうなんだよッ!ままままままままッ!!大変なんだよッ!!」


 で、結局のところ、話しが進んでねぇが、いつもの事だから気にしたら負けだ。それに、情熱的に俺を呼ぶ豚骨トンコッツと一見冷静な白湯パイタンの間で、何やら普通な感じで佇むワンタンとアリスが、何やらどっかの映画のタイトルみたいな感じでしかねぇんだが、まぁ、それもどうでもいい事だよな?


 そんでもってな、大興奮の豚骨トンコッツがなんでこんなに大興奮かって言うとだな、どうやら50階を攻略したからって訳じゃなさそうだった。

 ちなみに、ほぼ全裸の白湯パイタンをそのままにしておく訳にはいかねぇし、そのままの格好で変な趣味に目覚められても困るから、取り敢えず服を着てくるように言った訳なんだが、白湯パイタンが戻ってくるまで取り敢えずその話しはオアズケになった訳さ。




「で?50階に何があったんだ?」


「あのねあのねあのね、まま!50階に何も無かったんだよ!」


「へぁ?いや……豚骨トンコッツ、それじゃ意味が分からねぇ。白湯パイタン、通訳頼めるか?」


「ぶぅッ!うち、そんな変な言葉使ってないモンッ!ぶぅぶぅ」


「よしよし、とんこっつ。さすがレッドオークね!ぶぅぶぅ言うなんて、分かってるぅ」


「アリス……くだらねぇオヤジギャグ言ってないでいいから、ちょっと黙っててくんねぇか?」


 ちょっとだけ顔をむくれさせた豚骨トンコッツとアリスを尻目に、俺は白湯パイタンの言葉を待つ事にした。ちなみに白湯パイタンの服装はいつもの格好だから、目の遣り場に困る事は無ぇ。

 とは言っても俺としては、恥じらう白湯パイタンが可愛いと思っちまったなんて事は無ぇから安心してくれ。



「ママ、このダンジョンは50階で完全攻略なのかもしれない。ボス部屋にある筈の次に繋がる階段が無かったんだ」


「ふぅん、なるほどな。まぁ、そうしたらお前達が、このダンジョンの攻略者パーティー第一号って事だな?」


「ねぇ、まま?明日、ままも一緒に50階の攻略に行こうよ!ダメかなぁ?」


「あぁ、いいぜ。俺の方も一段落したしな。明日はお弁当持って、俺も50階攻略しとくか!」


「やったぁ!楽しみ楽しみッ」


マシマシマシマッシ、お前も付いて来るか?装備だけ貰っておくのも悪くないんじゃないか?」


「母さん、わーは遠慮しとく。だけどその代わりに、わーは中華麺をたくさん作っておくよ」


「分かった。じゃあ、中華麺はマシマシマシマッシに任せる。でも、うどん麺と違って、2、3日寝かせるとより一層美味くなるって言ってたから、それで頼むぜ」


 こうして俺達の明日の行動は決まった。とは言ってもその前に、みんなが回収してきてくれた切り身は加工しないとならねぇし、マシマシマシマッシから送られて来てる野菜を使って、お弁当を作ったりとやる事はたくさんある。

 そうして明日の準備が終わってから、風呂に入ったり、飯を喰ったりと寝るまでにはやっぱり時間が掛かる。


 でもま、やっぱり元日本人としては、風呂に入ると落ち着くというか、気が抜けるというか……風呂が日本人の心って言っても俺はいいと思う。

 まぁ、裸の付き合いって大事だよな?最初の頃のアリスは風呂に驚いていたけど、今じゃ風呂無しの生活なんて、ありえねぇって言うくらい風呂好きになった様子だ。



 その風呂好きのアリスなんだが、アリスにとっちゃ風呂に入る時は全員が裸になるってのが目的なのかもしれねぇって、最近思うようになってた。

 要するにそれってさ……アリスって実はおっさんなんじゃねぇかって思っちまうよな?でもま、アリスが他のヤツらにちょっかい出しても体格差的に必ず捕まって、最後には一方的に気持ち良さそうな声を風呂に響かせてるから、まんざらじゃねぇのかもしんねぇな。

 ってかさ、俺的にはアリスが気持ち良くなる為に、自分から調教されに行ってる気しかしなくもねぇんだが、それは置いておくとしよう。



 そんなこんなでサッパリした後は飯の時間になる訳だ。まぁ、1人サッパリした後にも拘わらず、とろけてるヤツがいるが、それも含めて日常になってるから放っておこう。

 そして、腹いっぱい飯を喰ったら寝る。アリスはまだ調教が足りねぇとでも言いたい表情でおねだりしてるが、俺としては睡眠欲の方が大事だから、調教したいヤツがアリスを構ってやるだろうと考えてとっとと寝る。

 部屋の中にアリスの気持ち良さそうな喘ぎ声が響くが、俺の睡眠妨害にはならねぇからお構い無しってヤツだ。

 ってかさ、アリス……この身体クレアの時からそんな欲求不満だったのか?って聞きたい気がしたけど、その言葉が口から出る前に俺は夢の中に旅立っちまったから、まぁ、どうでもいいや。




「改めて実感したけど、ジロウのバフって凄いわね?」


「そうなのか?俺は何もしてねぇし、ただ後からくっついて来たら全部終わってるって状況だから、俺自身が単なる役立たずくらいにしか思ってねぇんだけど?」


「まぁ、今のあの3人を見てると、確かにそう思うかもしれないけど……。でもでも、それでも昨日のぱいたんは、モンスターから攻撃を貰ったのよ?少なくとも、とんこっつも、わんたんもダメージは負ってたわ」


「あぁ、確かに服が失くなってたから、それは本当だと思ってるぜ?でも、モンスターが近寄る事も出来ねぇ今の現状を見ちまうと……な」


「ジロウのバフがかなり凄いってコトよ。だから、バフが無い状態の時は結構苦戦する時もあるの」


 俺は家を出てから俺の事を護衛してくれてるアリスと共に、先行してる3人を追い掛けるので精一杯だった。それくらい3人は強い。でも、その今日の3人の強さは俺のお陰だとアリスは言ってくれる。そうは言ってくれるが、実際の俺は手に付けてるグシケンを使う事なく、モンスターの前に立つことも無ぇ。

 実に複雑な心境ってヤツだ。



「まま!50階のボスも終わったよ!まま用の宝箱があるから、開けて開けて!」


「お、おう!早かったな。流石豚骨トンコッツだ」


「えへへへへ。ままの為に頑張ったんだよ」


「一応、あたい達も頑張ったんだけどな?」


「ワンタンも、白湯パイタンもよくやってくれた。俺はちゃんと見てたぞ。よしよし」


「「えへへへへへへ」」


「ホントに3人共、ジロウの事が大好きよね?」


「なんだ?アリスも頭を撫でて欲しいのか?」


「ちッ!違うわよッ!な、なんで私が、ジロウに褒めてもらわないといけないのよッ!」


「よしよし。アリスも俺の護衛、ありがとな」


「ななな、何よッ!私の頭を気安く触らないでッ!べ、別にジロウに褒めて貰いたい訳じゃ……ごにょごにょ」


 俺には正直なところ、アリスの気持ちは分からねぇ。これってツンドラとか言うヤツなのか?まぁ、ツンドラってアレだろ?くっそ寒いんだっけか?アリスのよく分からねぇ性格を正確に表現してるいい言葉だと思うぜ。



「じゃ、開けるぜ……」


「次はどんな包丁かな?楽しみだね、まま!」


「いや、俺としてはもう包丁はいらねぇんだけど……」


 俺は二度あることは三度じゃなくて、九度もあった事を根に持ってる訳じゃねぇ……とは絶対に言えない。だから少なくとも今回も包丁が出て来るような予感はしてる。

 でもな、豚骨トンコッツ……そんな満面の笑みで俺を見ながら、包丁を期待するのは俺の繊細な心に鞭を打つようなモンだ。

 俺だって、好きで包丁を集めてる訳じゃねぇ!包丁集めが趣味って訳でもねぇ!だから……だから……だから、そんな純真無垢な瞳で、ワクワクしながら包丁を期待するのをやめてくれ。


 なぁんて事を豚骨トンコッツに言える筈もない俺だ。




「ねぇ、まま……それ、なぁに?」


「うん……なんだろうな?あはは、俺には分からねぇよ」


 いや、あのさ、うん、なんて言えばいいかな?俺は出て来たモノが何か分かってる。でも、それを直接的に伝えるのは俺の口からは無理だった。

 だけど、例えば……ホントに例えばだぞ?豚骨トンコッツに「これは、だ」と言ったところで、豚骨トンコッツを知らなかったら意味が無ぇだろ?

 それに豚骨トンコッツの性格上、知らなかったら聞き返してくるだろ?そうなったら、俺は何も言う事が出来ねぇ。


 かと言って、これを豚骨トンコッツに使って実演する訳にもいかねぇ。それはもう絵的にアウトとしか言えねぇし、そもそも、こんな場所でするモンでも無ぇ。

 いや、家でならいいとか言わないでくれよ?流石に自分を母親と慕ってくれてる娘の初めてを俺が奪う事なんて出来ねぇし、初めてがなんてのはもっての外だろ?

 そもそも俺は幼女趣味じゃねぇ。見た目が幼女じゃないからセーフ……なんて事も無ぇからな?そこん所は分かってくれよな?



「ジロウ……それって……」


「うわぁ、分かってても言うなアリス!言ったらダメだ!言ったら色んな意味で色々とヤバい!」


「ちょっと、何を焦っているのよ?それって、女神像でしょ?」


「へっ?女神……像?えっ?そうなの?これっててっきり……」


「一体、何だと思ってたのかしら?まぁ、それは後で問い質すとして、その女神像がジロウの専用装備なワケ?」


 アリスには助けられた気しかしねぇ。これが本当に女神像だとしてもしなくても、それなら豚骨トンコッツも納得してくれるだろうからだ。

 まぁ、専用装備として何が出来るか?と聞かれたら、武器にも見えねぇし防具にも見えねぇ訳で、さらに言えば装飾品にも見えねぇし……ってか、を身に着けるなんて普通はしねぇよ。

 いや、普通は……だからな?普通の使い方なら身に着けねぇだろ?頼むよ?分かってくれよな?察してくれよ?


 まぁ、だから殴るくらいは出来るかも知れねぇけど、敵を倒せるとは思えねぇよな。その前に首がポキッといきそうだもんな……。



「これなら、まだ包丁の方が良かったぜ……」

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