第12話 頭脳は大人、身体は子供な悩み

「はい、大っきい……です」


 えっと、セレネ……です。本名は、セレネイア・イラストリアス・テレグラス……です。種族はハーフリングで職業は荷物運びポーターをやってます。

 わたし、こう見えて30歳を過ぎてるんですけど、種族的に幼く見られがちで、よく子供に間違われます。


 この街に住んでいるハーフリングはほとんどいませんし、ハーフリングについて知ってる人達も少ないので、大抵の人は、わたしを子供扱いしてきます……。


 そして、とんこっつさんも、ぱいたんさんもいい人達ですけど、やっぱりわたしの事を子供だと思ってる気がします。

 わたしはそれが災いして、お世話になった冒険者の方にお酒に誘われる事もないですし、胸が小さくて子供だと思われてるせいか、今まで男性経験もありませんけど……わたし、子供じゃないんです……。


 本当に本当に、子供じゃないんです……。



-・-・-・-・-・-・-



「あったよ!これだよね?」


「はい、この帽子に見覚えがあります」


 そこは、48階層の一番奥の部屋だった。その部屋に来るまでに、多くのゴブリンモドキが襲って来たが、それらは瞬時に一網打尽にされ無残な姿ミンチに成り果てていった。

 そして辿り着いた一番奥の部屋に、それはあった。そこは何も無い部屋だった。部屋自体はそこまで広くないが、その中には多数の人骨があった。



-・-・-・-・-・-・-



「ここが、種付けされた女性が隔離される場所……なのかしら?」


「こ……こんなに被害者が?」


「連れさらわれた人がいつの頃からここに集められてるか分からないし、他の階層にはこんな部屋は無かったから、低層からここに連れて来られてる可能性もある……のかしら?」


「確かに、ここより下の階層で、わたしが知ってるエリアにこのような場所はありませんでした」


 確かに、セレネが過去に探索したマップの中に、このような部屋は無かった。だからセレネも初めて見た光景なのだが、気持ちのいいモノではないのは明白だ。

 広くない部屋の中で無残に且つ無数に散乱した人骨。部屋の岩壁には苦しみ藻掻き、掻き乱したような痛々しい爪痕。そして、部屋に落ちてる人骨の側には、もはや誰も使う事が出来ない専用装備と、その人骨が生前に身に付けていたと思われる服や装飾品などが落ちている。


 その中に、帽子を被っているガイコツがあった。セレネは連れさらわれたヒーラーが身に付けていた装備の中で、特徴的な帽子を覚えていた。だから、この部屋の中にあるかもしれないその帽子を探していた。そして、豚骨トンコッツがその帽子を被っているガイコツを発見したのだった。



「それじゃあ、このガイコツをさっきの人達の所に持っていって、一緒に埋めてあげよ?」


「えぇ、そうね。でもその前に姉さん……この部屋を焼いてもらってもいいかしら?」


「焼く?とんこっつさんって、そんな事も出来るんですか?」


「うちは火属性の魔術も使えるから……って、なんでこの部屋を焼くのッ!!ぱいたん!?」


「こんなところで、モンスターに孕まされて生命を落とした冒険者達の弔いよ。こんな階層まで骨を拾いに来る人はいないだろうし、全ての骨を埋めてあげる時間もないから、せめて灰にしてあげましょ?」


「そっか!それなら任せて!二人は下がってて、盛大に燃やしちゃうからッ」


 こうして広くない部屋に炎がばら撒かれ、三人は煌々とした明かりを背中に受けたまま、三人の亡骸があった場所へと無言で戻っていった。




ぱんぱんッ


「こんなモンでいいかな?」


「えぇ、充分でしょ?」


「専用装備を墓石替わりに出来れば良かったんだけど……」


「姉さんの怪力でも持ち上げられないんだったら、誰にも出来ない芸当だわ」


「ぱいたんッ!うち……そんな怪力じゃないモン!もーッ」


 こうして三人の骨は、一つの穴に埋められた。墓石は手近な場所にあった控えめな石が採用された。三人は出来上がったその墓の前で手を合わせていた。



「皆さん……そっちでもお元気で」


「ありがとう、セレネ。神のご加護がアナタに降り注ぎますように……」


「えっ?」


 セレネは声が聞こえた気がした。急ぎ目を開けて振り返るとそこには、キョトンとした豚骨トンコッツ達しかいなかった。



「今、確かに……」


「どうしたの、セレネちゃん?」


「いえ、なんでもありません……」


「そう?ならば先を急ぎましょう。姉さん、次は49階……未だに誰も踏み入れてない階層だから、気を付けてね。セレネも闘えないなら無理に闘わないでいいからね」


 そして踏み入れた前人未踏の49階だったが、強力な個体はおらず、ただただ大挙としてゴブリンモドキが襲って来るだけだった。流石に二人は拍子抜けしていたが、その数の暴力であっても二人の歩みを止める事は出来ず、セレネはそんな二人を見守る事しか出来なかった。


 そして、このダンジョンの50階に至る。



「ここが、ボス部屋ですね」


「ねぇ、ぱいたん。ここから上があるかな?どうかな?」


「えっ?ダンジョンって50階で終わりなんですか?」


「それはダンジョンによるみたいよ?わちき達が攻略したダンジョンの中には30階止まりってのもあったから……。でも、50階を超えるのは今までに見た事が無いわね。だから、ここもこの階層で終わりなんじゃないかしら?」


「じゃあ、開けるよ?準備はいい?」


「えぇ。タイミングは姉さんに任せるわ」


ぎぎぎぎ……


「グガガガガガガアアァァァァァァァァァッ」


「デカいわね」


「はい、大っきい……です」


「じゃあ、二人は見てて!うちが行って来るッ!」


「ちょッ!姉さん!不用意に突っ込んだら……」


ぶぉんッ

 どげげげげすッ


 50階のボスに向かって行った豚骨トンコッツは、二振りのモーニングスターの乱舞でボスに先制を行うと、直撃をもらったボスはそのまま動かなくなり、あっという間に討伐は完了した様子だった。

 流石にその光景には、白湯パイタンですらも唖然としており、順応性が高いセレネですらも開いた口が閉じられない様子だった。



「姉さん……いつの間にそんなに強くなってたの?」


「さっきの45階のお宝ご褒美から統合したバフが、いい感じだったのかも?」


「それにしても、豚骨トンコッツさん凄いです!」


「そうだ、セレネちゃん!今回はお宝ご褒美箱が3つあるよ!1つはセレネちゃんの分だよね?」


「なんか……その、わたしが頂いたら悪い気がします……」


「でも、1つはセレネにしか開けられないんだから、遠慮無く貰っておいて。ここまで逃げずに着いて来てくれたお礼だと思って!」


 こうして三人はそれぞれ宝箱を開けた訳で、その中に女神像は入っていなかった。豚骨トンコッツ白湯パイタンも不服そうだったが、拾った専用装備を今まで通りに自分の装備に統合させると二人は次の階層へと繋がる階段を探しにいった。



「このダンジョンは、この階で終わりみたい。そう言えば、セレネちゃんはどんなお宝ご褒美が出たの?」


「これです……コレ何でしょう?専用装備には見えないんですが……」


「そうね。専用装備には見えないから、専用アイテム……かしら?姉さん分かる?」


「うちはサッパリ。ダンジョンから出たら、ましまっしに聞いてみようよ?ましまっしなら知ってるかもしれないよ?」


 こうして、ダンジョン攻略を無事に遂げた三人は街へと帰って行った。帰り道に再び湧いたゴブリンモドキ達を殲滅し、意気揚々と帰り道を進む豚骨トンコッツ達だった。




「もう、次のダンジョンに行ってしまうんですか?」


「えぇ。わちき達は目的を持ってダンジョン攻略してるから、目的を達成するまで次々にダンジョンを攻略しないと」


「セレネちゃん、それじゃあね」


「はい、お二人ともお元気で!またこの街に来る事かあったら、是非寄って下さい!」


 翌朝、二人はセレネの家を後にした。ちなみにセレネが50階で拾った専用アイテムについては、マシマシマシマッシも知らなかった。だからその専用アイテムについてはマシマシマシマッシが調べて後日、セレネの元に効果が知らされる事になった。


 ——よって、これは後日談。



「お久しぶりです、セレネさん」


「あっ!ましまっしさん。どうしたんですか?」


「セレネさんが拾った専用アイテムが何なのか分かったから、お知らせに来たんです」


「あッ……そう言えばそうでした。わざわざありがとうございます」


「では、調べた事を手短に単刀直入に伝えますね」


「はい、お願いします」


 セレネが拾った専用アイテム……それは非常に希少とされる、「希望アスピレイの種ションシード」と言うモノだった。

 その種は自分に植える事で効果が得られる。そして、自分が心から望む願いを叶えてくれる実を、自身を苗床にし、自身のオドを養分として成す……というアイテムだと、マシマシマシマッシは伝えた。

 その願望が大きければ大きい程、実を成すまでに時間が掛かるが、結実すれば必ずその願望は叶うのである。

 ちなみに、自分自身に植えたからといって、身体から木が生えてくるといったホラー現象は起きないし、植物人間になるという訳でもない。



「何を望むのか……何を願うかは、セレネさんが決めて下さい。その種を口に入れて飲み込めば、いずれその願望を叶えてくれる実が手元に現れるそうですよ」


「でも、わたし……欲しい物なんて無いし、叶えたい事も無い」


「セレネさん……それは専用アイテムだけど、自分の願いを叶えてくれるアイテムだから、本人専用と言っても他人の為に使う事も出来るかもしれませんね」


「ッ?!それじゃあッ!」


「えぇ、そういう事です。それでは、わーはこれでおいとまします。さようなら、セレネさん。お母様と共にお元気で」


 セレネは専用アイテムの効果を聞いても、自分自身に対する「願い」が考え付かなかった。それこそ口にはしなかったが、「お金が欲しい」と言った稚拙な考えしか浮かばなかったのだ。


 だからマシマシマシマッシは助け舟を出す事にした。セレネに何故、「お金が欲しい」のかを考えさせるキッカケを与える事にしたのだった。

 拠って詰まるところ、「母親の病気を癒やす事が出来る実を母親が食べて、二人で幸せに暮らす」と言う願いを考え付いたセレネは希望アスピレイの種ションシードをその口に含み一気に飲み込んでいった。




「セレネちゃん、今頃どうしてるかなぁ?」


「さぁ?ましまっしが調べてくれた効果を試しているんじゃない?」


「うん、そうだよね!希望アスピレイの種ションシードだっけ?願いをなんでも叶えてくれる種、かぁ……」


「姉さん、多分その種を姉さんが飲んでも、ママを連れて来るのは出来ないと思うわよ?」


「ッ!?えっ?なんで、ぱいたん分かったの?」


「そりゃあ、分かるわよ。わちきだって同じ事を考えたもの。逆に姉さんがそんな簡単な事を考えない訳ないでしょ?」


「ぱいたん、うちをバカにしてる?」

じとーーーッ


ぼこッ

「姉さん達、その種を姉さん達が飲んでも結実する事は出来ないと思うよ?多分、母さんをこの世界に連れて来るのは、四人姉妹全員のオドを一生分集めても無理だと思うから」


「ましまっし……。うちだって、前に女神様のんごい魔力を感じたモン。ままをこの世界に連れて来るには、女神様くらい魔力が無いと駄目なんだって言う事くらい……分かってるよぉ」


「ところで姉さん達。セレネさんの母親は無事に回復したみたいよ?セレネさんのオドを吸い上げて結実するまでに数分も掛からなかったから……。あの種は自分の事に使うより、誰かの為に使う方がいいのかもね」


「それならッ!うちが、ぱいたんの願いを叶える為に、ままを呼ぼうとすれば……はッ?!ダメッ!うちが一番なんだモンッ!」


「はぁ……姉さんは放っておいて。でもそれなら良かったわね。あんなにっちゃい子が一人で薬を買う為のお金を集めてるなんて、可哀想過ぎるわ」


 マシマシマシマッシは専用アイテムの力がちゃんと発揮されるのかが心配だった事から、別れを告げた後も様子を見守っていた。だから一部始終をちゃんと見ていたし、その事について豚骨トンコッツ達に報告をするつもりでいたのだった。


 最後にマシマシマシマッシは、セレネが実は自分達より遥かに年上である事を二人に告げるか悩んでいたが、それは余談としておこう。



     〜 Fin 〜

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シン・異世界ラーメン無双奇譚 〜山形次郎と愉快な仲間たち∠( 。ÒㅅÓ)/ まぁ、ラーメンは素人が作っても魂込めてれば旨い筈だと思いながら、ダンジョン攻略してやるぜ!〜 酸化酸素 @skryth @skryth

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