心は霧がかかって読めないけれど、美しさを想うことはできる。

都会に出たものの、田舎者の臭いを指差されることに疲れ、地元に帰ってきた主人公が、竜胆の香りと出会う掌編。
当初主人公は、竜胆の香りに、都会で憧れた姿を想います。しかし、手紙で判明したそのルーツは、田舎に住むお婆さんの好きな香りだったという優しい皮肉がありました。

都会らしさとか、垢抜けって何でしょうね。改めて感じます。
見目麗しくなっても、下を見つけて指を差して回る悪魔を心に宿すくらいなら、本作の主人公のように他人を慮り、そっと竜胆を想う心を持ちたいと思いました。
私の大好きな曲である、さだまさし氏の『一万年の旅路』を想起しました。
香る竜胆。では、その花は一体どこに根付いているのか。
心というものは往々にして読めないものだといわれます。しかし、その内に香る優しさを感じることはできる。そこから触れ合って、花の輪郭を知ることで、より深く慈しむこともできるでしょう。
気付いた者だけが美しい。

胸があたたかくなる素敵な物語を、ありがとうございます。