疲弊した心が癒やされていく、優しく短い物語

(この感想は一方的なボクの考察になっているのをご了承ください!
また、読んだ前提となっている考察的感想です。未読の方はご注意ください)




ボクが、いいなぁと思ったのは、物語構成と言葉の意味と物語の関連性。
『私』が憧れると散歩ですれ違うだけの『あの人』です。
彼女は『私』が都会でなりたかった自身の理想像なのですが、『あの人』が直接、『私』に手を差し伸べることはありません。
特にいいな、と思ったのは、『あの人』は、物語上、大きな存在なのですが、『私』の一方的な感じ方で成り立っているキャラということでした。
もしかしたら『私』の存在すら認識していなかたかもしれません。でも、結果的に『あの人』は『私』の疲弊した心を癒やしてくれるんです。
そこが良かった。


タイトルにある霧時雨(きりしぐれ)が秋の季語であり、霧の様な雨は、『私』を表しているものだと感じました。雨と霧の堺が曖昧なそれは、現在の『私』の心。
もうひとつの竜胆(りんどう)は秋の花。その香りが『あの人』から香るのをきっかけにこの短い物語が動き出します。
花言葉は「悲しんでるあなたを愛する」「勝利」「満ちた自信」
そして敬老の日に贈られる花。

最初は「満ちた自信」つまり、『あの人』抱いていた理想の自分
次に「勝利」
「勝利」の由来が「病気に打ち勝つ」という意味からです。
つまり、『私』が自分を取り戻していくこと。

そして「悲しんでいるあなたを愛する」
この花言葉は『あの人』を指すことではなく、『あの人』が『私』の故郷にやってきた理由である『祖母』でした。

いろいろ読み込みながら分かっていく様々な事柄にまるでミステリーを紐解いていく気分になって楽しかったです。

本来、感傷的になるような作品なのかもしれませんが、ボクはワクワクでした。


短いながらも構成がしっかりしているのもよかったです。

お手本にしたいと思った作品でした。