甘く楽しいばかりじゃない。ゲーム世界転生の果てに、彼の望みは叶うのか

自業自得というにはあまりに惨い形で死を迎え、死後に残ったものさえ失ってしまった主人公――という、あまりにも報われないところから始まるゲーム世界転生譚。

展開の切り回し方に少しばかり癖があって端的な説明が難しいのですが、とにかく「読ませる」話です。荒んだシビアめの展開も少なからずありますが、そのうえできっちり魅せる筆力を感じます。
タイトルやあらすじで何かしら惹かれるものがあった方は、チュートリアル相当の部分である五話、ないしその後の新展開となる六話まで読んでいただけると本作の雰囲気がわかりやすいかなと思います。是非に。

転生前の経緯やチュートリアルの極悪さもあって、当初は絶望しかなかった主人公ハワード(※ゲーム内の名前)ですが、チュートリアル突破後には癖はありつつも各々可愛げや愛嬌のある仲間――ヒロイン? マスコット? が増えたことで、周りが徐々に賑やかになり、空気も展開もRPGのゲームらしくなってきています。
こちら揃いも揃ってどこか一癖ある仲間達は魅力的で、ゲームを攻略してゆく展開は見ていて楽しい。
しかしこの物語の根底にある主人公の目的は、過去へと戻り転生前の人生をやり直すこと。また、彼と共に旅する仲間達も、どこか心に瑕を抱えているような気配がほの見えます。ゲーム世界は「楽しい」ばかりでなく、底流の部分にどこか不穏さを抱えているように感じるのです。

いずれどこかで迎えるであろう彼ら彼女らターニングポイント、そこでどのような展開を迎えるのか。
少しずつ転生後の世界に居場所を得つつあるハワード達の、彼らが抱えた伏せ札が開かれる時が来るのを期待しつつ、目の前の物語を見守っている私です。

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