第6話 デート
その日の夜、僕たちは駅の近くの商店街に向かった。
「何か食べたいものある?」
デートに行こうと声をかけた彼女は、それからずっと、黙ったままだった。
「あれ、食べたい」
結衣はパフェを売っている店を指差した。
デートというものは、男が奢るもの。もちろん、僕が払うことにした。
彼女が、そういう空気を作っているのも事実だが。
それからは、ゲームセンターに行ってみたり、プリクラを撮ったり、学生らしいデートをこなした。
1時間ぐらい経って、彼女の顔色を窺ってみた。喜んでいるかどうかは、全くわからなかった。
口元のラインはまっすぐで、目尻もまっすぐ。歩き方も、体が店に吸い取られるような様子もなく、まっすぐ歩いていた。
笑っている時もあったが、どこか考え事をしているようで、僕もうまく笑えなくなっていた。
「私と、突然会えなくなったらどうする?」
いつものことですよという気力もなく、僕は言葉を返さなかった。だが、表情が冗談を言おうとしているつもりでもなさそうだった。
とりあえず、気を使っておくことにした。
「困るし、寂しい」
僕のまっすぐな言葉に驚いたのか、彼女は表情を悟られたくない面持ちで、俯いて、言葉を発した。
「今の時間が、私にとって、最大の幸せだと思うんだ」
少し、気味が悪い。もし、結衣が胸の中にある言葉をそのまま僕に伝えているとしたら、変に思い詰めすぎだと思う。
「ちょっと死にたいからって、人生を試しすぎだよ」
物語みたいに起伏の激しい人生なんて、滅多にない。電車に揺られて、時間に流される。平らな景色しか見えないかもしれないけど、みんなそうなんだ。そこまで周りの人は幸せを感じてるわけでもないのに。
もし、現実に呆れているのなら、僕が楽しませるのに。
「ありがとう、行くね」
商店街終わりの角道を曲がった時、道路の照明が点滅して、一瞬の暗闇が訪れた。
その時、彼女も消えた。——————————
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