第9話 僕の時間

 いつもみたいに、彼女の元へ辿り着いた。


前回までは夜ばかりだったけど、今回は午前中、朝だ。


いつもとは雰囲気が違って、どこか前向きなことが起こりそうだ。でも、いい意味での前向きなことが起きるとは限らない。


 僕は、彼女の顔を見つめる。何度も訴えてきたことを、言葉を通さずに伝える。


僕の気持ちが伝わっているかどうかは、今日わかるだろう。


「一人でも、生きられるチャンスがある現代なのに、消えてしまうのは勿体無いだろ。」


今回は実践的なことを言ってみた。人を信じるとか精神論だけではなくて、もっと具体的なことを言えば、信じてくれると思った。


「個人で生きれるのはわかってる、けど、生きれないから死にたいんじゃない」


彼女は普段と同じような顔をして、言葉を放った。そして、


「何もないの、そこに。その時間には、楽しいこともなくて、心底笑える瞬間もなくて、もういいの」


今回もダメかもしれない、けど実際に飛び降りたことはないからと、油断していた。


結衣は、青空の元、身を投げた。


「結衣!」


まさか、本当に自殺なんて。




 終わろう。ダメだ、全く救われる気がしない。私は全てに納得した。だから大丈夫。


本当に私を救ってくれる人はいなかったんだ。確かに、自殺者数が年間で1万人を超えている。日本の片隅で静かに暮らしていた私を見つける人なんて、いないよね。


穴を埋めれるものが何もない。ずっと考えても、我慢しても、何も変わらない。中身のない言葉を連ねても、意味がなかった。


辛ければ、終わらせて仕舞えばいい。罪に問われるわけでもない、じゃあ——


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