活路はどこに
やはりショートカットを狙うならフェリーしかない。フェリーを使うツーリングは楽しいけど、フェリー特有の問題はやはりある。フェリーの主要顧客は長距離トラックだってこと。だから長距離トラックに便利なようにダイヤが組まれてるのよね。
「そやから出航時刻も着船時刻もクセがある」
簡単にはどちらもツーリングに使うには早すぎるとか、遅すぎるなんだよ。ここでだけどわたしの閃いた案でまず使うのは高松へのジャンボフェリー。このダイヤだけど、
第一便・・・神戸一時発、高松五時十五分着
第二便・・・神戸六時発、高松十時四十五分着
高松を起点に四国ツーリングをするなら第一便もありだけど、高松でうどんを食べたいなら第二便ぐらいの判断かな。朝の五時十五分に高松に着いても、うどん屋どころか食べ物屋さんがまだ開いてないものね。
「食べ物屋に限らず開いてる店の方が珍しいわ」
でも今回に限れば讃岐うどんに用はない。高松から徳島を目指す。
「ナビ上で七十七・六キロ、時間として一時間五十三分になっとるから、最低でも二時間はみたい」
そうなると徳島に着くのは第一便なら七時半ぐらい、第二便なら十三時ぐらいになるはず。徳島に行けば和歌山への海路が開くんだよ。
「南海フェリーは便数があるのがありがたいけど、ジャンボフェリーの第一便やったら八時、第二便やったら十三時二十五分発に乗れるやろ」
仮に第二便を使ったら和歌山港に着くのが十五時四十分なのか。フェリーを下船する時間もあるから、和歌山港を出発出来るのを十六時としたら、その日は和歌山市で終わっちゃうじゃない。
ちょっと待ってよ、第二便の六時に乗ろうと思えば、三十分前には三宮のフェリーターミナルに行かないといけないから、四時過ぎに起きて出発準備をしないと行けなくなるから、
「そういうこっちゃ。海路を使うと半日かかるねん。フェリーだけで七時間ぐらいかかるからな」
これはさすがに、
「それだけかかって和歌山泊りや」
それは嫌だ。第一便を使ったら十時十分に和歌山着だけど、
「ナビ上やけど潮岬まで四時間ぐらいかかる。高速乗れへんからな」
う~ん、夜中の一時の第一便に乗って半日がかりで和歌山に着いた後に、五時間ぐらい走れば潮岬に着く計算にはなるけど、これはさすがに厳しいと言うか無理があり過ぎる。だいたいだよ、夜中の一時の便に乗ろうと思えば、
「零時半にはフェリーターミナルに行かんとならんから・・・」
下手すりゃ徹夜じゃない。フェリーで仮眠を取るにしても、和歌山港から五時間のツーリングはキツイ。死に国道が快走路ってわけじゃないもの。あそこは渋滞すると逃げ道無しみたいな道だし。
「そうなると白浜ぐらいで泊まりになる」
なんてこと。フェリーは速度も難ありか。難があるから橋が架かったら駆逐される関係だものね。
「そうや。フェリーのメリットはかかる時間を寝とるのに意味がある」
長距離フェリーがわかりやすい。トラックも同じ距離なら陸路を走る方が早い。だけどいくら早く着いても市場が開いていないと待つしかないのよね。それと高速代や軽油代も考えると、フェリー代を払ってもフェリーで寝て行く方にメリットを出してるものね。
徳島と和歌山の間のフェリーの存在意味は、白浜とかの観光のためもあるだろうけど、メインは大阪に行くことよね。クルマなら大鳴門橋、明石大橋、阪神高速でも行けるけど、和歌山に出ても近いもの。料金設定も割安にしてるはず。
「旅客やったら南海電車のラピート乗り継ぎの方がラクかもしれん」
高速バスとの競争だね。
「そもそもやが、第一便は言うまでもあらへんが、第二便を使う気やっても走って行けるやんか」
都市部の市街地走行とは言え深夜や早朝は空いてるものね。平日だったらとくにだけラッシュの時間帯を避ければ市街地走行も随分マシ。ネックなのは夜道だけど、さすがに街灯は整備されてるもの。
「単なる思い付きは解決にならん」
ギャフン。でもフェリー利用に無理があるのがわかったのは収穫だった。そうなると正攻法か、
「まあそうなってまうんやが、帰りがキツイわ」
そこに戻るか。出発の日は三時でも出発できるけど、帰りはそうはいかないのよね。どうしたって、真昼間に大阪を通り抜けざるを得ないのよね。当たり前だけど、行きより帰りの方がテンシュンも低いし。
「そういうこっちゃ。最大の難所を一番走りたくない状態で走らなあかんことになる」
考えただけでウンザリだ。そんなテンションで走ったらホントに事故になっちゃうもの。でもだよ、だからと言ってあきらめろと言うの。
「後悔先に立たずやけど、ツーリングを始めた最初の頃に突っ込んどいたら良かったな」
それはある。最初にやったお泊り付きのロングツーリングなんかそうだもの。神戸から尾道まで下道ツーリングだよ。そりゃ、もうってぐらい大変だったけど、あれが出来たのは知らなかったから。知っていたらあんな無謀なルートは走らなかったもの。
「そうやって新しい道を走るのも楽しみやけど、潮岬への道は変に知っとるのがあるからな」
わたしが昭和に行った時も大変だったんだよね。今のように高速がある時代じゃなかったから、ひたすら渋滞を走っていた記憶があるぐらい。半分ぐらい寝てたけど、とにかく遠かった記憶だけあるもの。
でもさぁ、でもさぁ、早立ちで片道だけでもクリアできそうじゃない。ここは発想をガラッと変えて潮岬から東に走って三重に抜けて、
「どんだけの大ツーリングやらかす気やねん。関が原から滋賀に回る気か!」
大阪も京都も迂回したいとなれば、それこそ日本海まで抜けるツーリングになっちゃうものね。それはそれで楽しそうだけど、さすがに無理がある。あの辺も行ったことがあるから、ひたすら走るツーリングになっちゃいそう。なにか考えてよコトリ、
「無茶言うな」
さすがのコトリでもそう言うか。とにかく遥かなる潮岬だけど、わたしは地の果てを目指す旅人なのよ。これしきの苦難を乗り越えられずにどうするの。
「どうもせえへん。一番簡単なのは中型にするこっちゃ」
高速だって混むけど、使えるってだけで移動距離が飛躍的に伸びるのはわかってる。阪神高速だって、大阪市内を抜けるのは大変でも、湾岸線を使えばかなり変わるはず。だけどだよ、あのバイクでツーリングするのは二人の生きる目的じゃないの。
「いやユッキーの足着き問題や」
ギャフン。でもこのスタイルはお気に入りなの。コトリだってそうでしょうが。毎度毎度似たような姿で宿主代わりしやがって、見飽きるじゃないの。
「そこはお互い様やから置いとく。そやけどフェリー案を検討したんは無駄やないかもや」
使えないってわかっただけじゃない。神戸と和歌山で半日かかるんだから、使いようがないじゃない。
「今回のツーリングのネックは時間の使い方やねん。少し贅沢に使えば見方が変わる」
贅沢? やっぱり日本海まで抜けるとか、
「だからフェリーを使うって言うてるやろ」
そういうことか! 変則は変則だけど、それもおもしろそうじゃない。これでついに潮岬への道は開けたぞ。
「最初から開いとるわい」
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