精悍にして偉丈夫、粋な風来坊の榊清十郎は、ある時ふらりと桜の大樹に立ち寄る。そこに気配なく女が現れ、樹上へ登るよう彼を促すが、その真意やいかに……?
時代系作品の文体でありながら読みやすく、さらに風流で粋な情景や動作を味わえる作品。主人公である清十郎から漂う強者感や、風情を楽しむ感覚も堪らず、惚れさせる男といった姿が浮かんできます。
歌舞伎役者への声援よろしく名前を呼びたくなる清十郎ですが、タジタジになる場面も。風来坊にして義に厚く、けれど親近感も湧く清十郎を、一瞬にして好きになってしまうこと間違いなしです。
魅力的な主人公だけでなく、現れた女の正体まで含め、粋で爽快、趣深く美しい一作です。どうぞご一読あれ。