ドーナツ

 鏡に映る私が嫌いだ。


 鼻も低く、人を睨むような切れ長の一重。思春期のせいなのか、所々に散らばる赤いニキビ。体育の授業のせいでこんがりと焼けた黒い肌。全てが自分の理想とは程遠い。女優みたいな美人になれなくてもいいから、せめて人並みになりたい。

 だからニキビだけでも改善しよう。そう思って可愛いインフルエンサーのスキンケア方法を見漁った。

 けれど彼女達がお勧めしている化粧品は効果が出ない。どうせ、両親とやらがくれた遺伝子には抗えないのだ。神様は運命に抗うことを天罰とでも嘲笑うかのように、私の肌を魔女の鍋のなかで沸々と煮える生贄の血液みたいにしてしまった。 

 化粧品が無理ならせめて食事だけでも。と意気込んだ。

 しかし高校生という身分で一人暮らしも出来ない私に、1日の内に体内に入れる全ての料理を選ぶ権利もない。

 そういう訳で両親の善意で必然的に甘いスイーツが出てきたり、たっぷりのチーズが出てきたりする。ニキビが出来そうな食事を多く摂ることになってしまった。本当に嫌になる。


「鏡睨みすぎやん、どしたん、ドーナツ屋さんいかんの?」

思わず肩が跳ねる。

 そんな様子をみて「おどろきすぎ」と彼女はケラケラと笑う。

 その可愛らしく弧を描く目が羨ましい。今すぐにでもディッシャーでくり抜いてしまいたい。なんて、さっき悪態をついていたせいなのか。醜い感情が心を覆い被そうとしてくる。

 「早く行くよ」

 リップの蓋を閉めた彼女が私の手を引いた。


 「ドーナツどれにするか迷っちゃうね」

 色素の薄めなふわふわの髪から、特有の甘さを振り撒きながらこちらを振り返る。

 あぁ、こんなにも私と彼女は違うのか。香りもそうだ。

 が、私がカロリー表示を気にしつつ、チョコレートや生クリームがあまり入っていないものを顰めっ面しながら選抜しているのに対し、彼女は無限に広がるショーケースの中からどれを選ぶかニコニコ顔で迷っているのだ。

 なんで彼女だけ。誰にも問うことは出来ない、黒いクレヨンで塗りつぶされたように疑問を、グッと飲み込んだ。

 別に彼女が嫌いな訳じゃ無い。寧ろ、大好きだ。天真爛漫でいつも私の手を引いてくれる彼女を嫌いになんてなれやしない。ただ、この彼女との差にどうしようもなく胸が苦しくなる。


「ドーナツって見た目が0みたいだから0カロリー」なんて擦られまくって、もうペラペラになった、しょうもないギャグをいう彼女に、沢山の膿んだニキビが出来ることを祈って。私は店員さんにトレーを差し出した。

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