美味しいご飯が食べたいです。

沢渡

白米と味噌汁

 休日くらいは、和食の朝食を食べたい。


 出来ればほかほかの炊き立てご飯と、不恰好な豆腐と人参の浮く味噌汁。

 おかずには、鮮やかなオレンジ色が食欲をそそる鮭と、少し破けた焦げ目のついた甘めの卵焼き。

 想像をするだけで涎が垂れてしまうくらいの理想の朝食。


 きっと隣には、手には傷があるのにエプロンだけ無駄に似合ってしまう恋人がいて、「美味しい?」って不安そうな目で見つめてくるんだと思う。


 けれど、それはあくまで妄想でしか無い。

 私は今、冷凍庫に眠るご飯を取り出す。流れるままに解凍ボタンを押す。その後に、インスタントのお味噌汁。鮭も卵もお店に買いに行かないと、冷蔵庫には存在しない。

 ため息をついて、海苔を取り出した。


 1人っきりの食卓に暖かい湯気の薄ぼんやりと上る料理たちが並ぶ。私は箸を取る前に手を合わせる。

 「いただきます」

 暖かいご飯を一口運ぶ。少し硬いくらいが丁度いい。たまらずもう一口。噛み締める度、米の甘さを感じる。田舎に住む家族が送ってきてくれた白米だ。美味しくないわけがない。

 続いて味噌汁を飲む。規則正しく切られた小さな豆腐は、口の中ですぐに消えていく儚い存在である。味噌の香りなんてものは分からないが、薄めの塩味がじんわりと体に沁みた。

 ご飯の上に海苔をのせ、箸で器用にくるりと巻きつける。パリッとした食感がたまらない。直ぐにお米の水気でシナッとした食感になるのも楽しいところだ。

 私の食事はいつも1人だが、こんな日々を愛せるくらいには、料理というものは手作りでなくても美味しいのだ。

 先人に感謝をしないといけないと、手を合わせる。

 

      「ご馳走様でした」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る