怪物を、殺せ

本作は、懸絶した力をその身に宿す吸血鬼と、それを滅ぼす人間達の戦いの物語です。

あらすじやキャッチコピーの雰囲気でだいたい察せられるとは思いますが、「怪物どもをぶち倒してスカッと爽快!」などという物語では、残念ながらありません。どちらかというとハードでスタイリッシュな、夜の領域に属する系統の物語です。

びしりと決まる上手い形容が思いつかないので雑然と並べたてる形となりますが、思うにこれは、夜のような翳りと、熾火のような熱と、血風のような残酷さと、鋼鉄の如く揺るぎない信念と、雨が立てる波紋みたいなゆらぎと、いつだって気の合わない友人のように背中へへばりついた死と断絶の。
そうしたものの物語ではないかと感じます。非常に具体性を欠いていますが。

物語そのものは吸血鬼退治を骨子に据えた非常に王道のものなのです。だからというべきなのか、私にとって特筆すべきは、その物語から放たれる「空気」なのです。
硬質で、乾いて、くすんで、それでいて確固たる輪郭と骨子を備えた物語の空気です。

まずどうか紐解いてみてください。
願わくば、腰を据えて向かい合ってみてください。

刺さると、なかなかに酔えますよ?

――と。
思うに本作は、そんな装丁の物語なのです。

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