恐ろしい「救済」を描く

主人公は人間に模した人形を生み出せる何らかの技術者。
世に蔓延る虐待事件にいても立ってもいられなくなった彼は、その手腕で虐待児童に代わる人形を生み出します。
間もなくして得られた結果に主人公はその成功を喜びます。そんな彼の下に、実際に人形を「使う」家庭からの招待状が……。

暴力と言う普遍的な解法。もちろんそれは血を伴なうもので、見ていていいものではありません。人を模した人形に振るう暴力も同じで、作中に描かれる実際の暴力の様子は血の滲んだ生々しさで描かれます。

ここにこの作品の本質があります。すなわち「救いとは?」です。
確かにその家庭は人形により、今いる子供への暴力もなくなりました。一方で親が振るう暴力は人形という捌け口に任されます。
当然親もそれを顧みたりはしません。それどころか人形を生み出した主人公に感謝する有り様。子供も同じで、過去の人形は既にその子によって壊されています。

物質的な人への暴力は確かになくなりました。しかしその実態は道徳観の歪みを生んでしまっていたのです。ある種の機能不全家族。恐ろしいのは、こういった家庭が商業的な結果として表れていることです。つまりこの家庭と似たようなことが他のところでも……。
これが救いと言えるか否か。本文は主人公の視点で描かれる分、それは読者にとって極めて強烈な問いかけとして表れます。
短いながらも強烈なテーマ性を伴う生々しいホラーです。ぜひご一読ください。