第2話 彼であり彼女

「おはよ~。」

教室に入るなり、一人の女子生徒に声をかけられた。

色素が薄めの黒髪をおさげにしており、かわいらしい顔をした生徒だった。


「お、おはよ。」

僕はどもりながら会釈する。

キラキラしていて、すごく女の子っぽい子と喋ったりするのには何となく抵抗がある。

なんだか、自分が悪い見本のように見えてしまうから。

自責を避けるために、僕は女の子らしい女子生徒と話すのは避けている。


「あれ、元気ないね~。体調悪い?」

僕に声をかけた女子生徒は僕の顔を覗き込む。

「だ、大丈夫だよ!い、いつも通りだから!」

僕は少し距離を取りながらそう答えた。

目の前の女子生徒はさらに距離を詰めてくる。

近くで見るとかわいらしい顔のパーツ一つ一つがガラス細工のようにきれいな形をしていることにふと気づき、一瞬僕は見とれてしまった。


見とれてしまったことにハッと気づき、僕は少し身を引く。

その時、女子生徒の喉元に一瞬なんとなく違和感を感じた。しかし違和感の正体はわからず、僕は気づかなかったことにした。


「本当に大丈夫?何かあったらすぐ保健室行くんだよ?」

女子生徒は僕から身を引き、心配そうな目をこちらに向けた。

「う、うん!あ、ありがとっ!」

僕はうつむき加減でそういうと駆け足で教室を出た。


校舎の人通りがほとんどない階段の踊り場までくると、僕ははあっと息を吐きながらその場に座り込んだ。やっぱり慣れない。

「そういえば、あの子の名前⋯。」

僕は先ほどの女子生徒の姿を思い浮かべながらぼんやりとそんなことを考えた。

なんとなく、知っている人物のような気がしていた。

ずっと考え続けたけれど、全然あの女子生徒の名前はわからなかった。



放課後になり、僕は体育館の横の女子更衣室の前で立ち止まった。

これから部活の時間だった。

別にやりたいわけでもないけど、学校側が「やったほうがいいよ〜。」と圧をかけていってくるので人数が少ないと叫んでいる女子バスケ部に入った。

チーム競技が得意じゃないのになぜ入ったのか本当にわからないが。

僕はふうっと息を吐くと、女子更衣室の戸を引いた。


中にはすでに人がいた。

先客がいたかあ、とげんなりしつつも僕は更衣室に足を踏み入れた。

「あれ、ナツキちゃんだ。」

先に更衣室にいた女子生徒がこちらに気づき、声をかけてきた。

「あ、朝の…。」

僕はびっくりして入り口で固まってしまった。女子生徒はクスリと笑った。

「早く入りなよ。てかあたしスカート脱げないじゃん。」

僕はハッとして更衣室の扉を閉め、女子生徒が使っているロッカーから三個目のロッカーの扉を開けた。

「朝顔色悪かったけど大丈夫?」

女子生徒はブラウスを脱ぎながらそう聞いてきた。

「あ、えっと、大丈夫。」

「ならよかった~。」

僕もブレザーとブラウスを脱いだ。リボンも外して、すぐに半そでを着る。

「あ、あの。」

僕はちょっとためらいながら、女子生徒の方を向いた。

「?」

「名前、なんていうの?」


⋯。


なぜか更衣室がシーンと静まり返った。女子生徒はスカートに手を添えたままきょとんとしていた。

「え、っと~、あたしナツキちゃんと同じ部活なんだけど⋯。」

え。

僕は固まってしまった。うっそ、全然わかんなかった。

最近の部活は体力トレーニングが多く、チームメイトの名前もまともに覚えていなかったのだ。

「ふはっ。まじ?あたしはナオ。」

ナオ、と名乗った女子生徒は吹き出しながらそう告げた。

「ナ、ナオちゃん!お、覚えました!」

僕はナオちゃんの顔と名前を脳に焼き付けた。

「ん~、ナツキちゃんからはあたしとおんなじにおいがするからカミングアウトします☆」

ナオちゃんはいたずらっぽく笑うと、先ほどから添えていた手でスカートのチャックを下ろした。

そのとたん、僕は驚きで固まってしまった。


目の前のは、ボクサーパンツを履いていた。


「あたし、元男の子です。」

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GENDER 海藍 @2mm_world

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