第38話お話をめぐるあれこれについてのついでみたいなあとがき
最初になんというか、言い訳じみてしまいますが、普段、このように一章を設けてあとがきなるものをつけるようなことはしないことにしております。
本来、作品は出来上がったものが全てである、という考え方をしているせいですね。
ですが、今回は少々疑問点が多かったせいで少し混乱しました。
なんせ一昨年の夏ごろにアイデアが形になりつつあった頃、どうしても第一話(作中での一話・二話)を書きたくなってしまい、プロットも立てないまま書き出してしまったのがそもそもの始まりでした。
結局最後までプロットを立てないまま、あらかじめ決まっていた結末に向けての試行錯誤が繰り返されることになったのでした。
なもんで途中でキャラクターが作者の予想に反して勝手に動いたり、「え、ここでそういう事言っちゃうの?」みたいなセリフが出てきたりしましたが、意識はしていないにもかかわらず、結果としてはまあいい感じに仕上がったので、こういうのもありかな、などと思っております。
そんなわけで備忘録がてらちょこっとまとめてみることにします。
※
大前提の話になっちゃいますが、記録では「黒人」と書いてあるだけで、「アフリカ人」とは言ってないんですね。
これがひっくり返るとお話が成り立たなくなっちゃうので、黒人=アフリカ人、ということに勝手に決めました。
史実とテレビの世界線とを無理やりすり合わせてあるもんですから、そこここでちょっと史実と矛盾を生じている箇所がありますが、まあフィクションということで大目に見ていただければありがたいと思います。
あと早々に気になったのは、光圀が二人の黒人を「雇い入れた」とされる史実上の記述ですね。
これにちょっと引っかかった。
長崎でスカウトしたみたいな話もどこかにあったんですが、この時代の背景を考えると、フリーの黒人が江戸の街をぷらぷら歩いていたのを見つけて「兄ちゃん兄ちゃん、ちょっと仕事せえへんけ」みたいなことがあったとは思えません。
なんらかの形で白人が関与していたのは間違いない、と踏んだのでした。
史実的に光圀が長崎へ行ったという記録はないみたいです。ドラマでは何回か行ってたような気もしますけどね。
一応ドラマ版を踏襲してる世界線の話だから、それでも良かったと言えば良かったのですが、どうもご都合主義っぽくて釈然としなかったのでした。
それに光圀がこの状況で金銭で黒人を買った、と考えるのも「らしくない」と思いました。
そこでこんな設定になってます。
三角貿易の件は史実ですね。
だとすると、二人が新大陸で降ろされずに、欧州経由で日本に来た必然性がどうしても必要になりますな。
なので、もしかしたら、ということでこんな理由付けをしてみました。
おそらく大部分の作者の皆様がスルーしておられる「言語」の問題をあえてチートスキルとして使用することで一石二鳥を狙った形です。
ちょっと面白い試みになったんじゃないかと自分では思っておりますな。
※
史実的な記録においては、黒人二人は測量技術を持っていたとされますが、この当時彼らは欧州では奴隷待遇であり、なおかつアフリカの地で機械操作の技術を持っていたとは考えにくいですよね。
すると、どうやって測量をしていたのか。
無論、「目視」しかありえないでしょうな。
目測で距離を正確に測る、というのは一見困難なようですが、ちょっと質は違うが筆者でも実は似たようなことができたりします。
在来木造の建物はモジュールに一定の基準があるんですね。
一間=1,820㎜、というのがそれ。これはいわゆる尺貫法の一尺=303㎜が元になってます。
で、建具の基準となる間口は一間なのです。
これを理解していると、結構離れた場所からでも、目測だけで建物の延床面積を推定算出することが可能になります。
これの精度は割と高いと自負してるんですが。
んなもんで、こんな能力があったとしても不思議ではない、と思ったのでした。
※
光圀が「なぜ」蝦夷地の、しかも石狩を目指したか、という点についても問題があります。
史実的にはその動機は「歴史上の謎」とされておりまして、『那珂湊市史・近世』では四つの説として北方防備説・物産交易説・蝦夷の叛乱調査説・地理的探検説をあげてますが、いずれも蝦夷地渡航の動機であって、石狩に向かった理由ではないんですね。
また、いずれの説をとっても性懲りもなく三年連続で三度までも蝦夷地渡航を実施した理由としては弱い気がします。
光圀の伝記を扱ったある小説では、光圀が『大日本史|(作中における『日本通史』はそれの原題)』の中で「源義経生存説」(衣川で討ち死にせず、蝦夷に渡って神格化されたという)に触れていることから、義経が蝦夷地にいた痕跡を探すのが目的であった(シャクシャインが義経の子孫だった、という俗説がある)としているのですが、
そんな絵空事のために巨費を投じて船を作った、というのも人物像的に無理があるような気がしたのと同時に、これでもやはり「なぜ石狩なのか」の説明にはなっていないような気がしたのですよ。
高木彬光の『成吉思汗の秘密』ではないですが(義経が北海道から大陸へ渡り、ジンギスカンになったという話)、ロマンティックな設定だから惹かれるものもないではないけど、どうも自分が考える光圀の世界観とは相容れないような気もします。
とするならば、この当時考えられる説得力のある理由はなにか、ということで考えたのがこの話です。
これなら「わざわざ黒人二人をなぜ快風丸に乗せたか」というもう一つの史実上の謎も一応の説明はつく、と踏みました。
無論もう一つの疑問となる「なぜ三度目で蝦夷地探検をやめたのか」ともう一つ「なぜ二年分の食糧を持って行ったのに四十日で帰ってきたのか」という点の説明にもなります。
そう、当初の目的を果たしたから、ではないかと。
本来ならもっと北、留萌や稚内、あるいは樺太まで、という野望も当初はあったのかもしれません。
ですが、現実問題として非常な困難が伴うであろうことは理由として大きいんですが、石狩到達を果たしたことによって、当初目的に近い重要なものが手に入った、とすればどうでしょうか。
逆に考えれば「石狩に行く」ことによってしか「手に入らない」ことにならないかと。
そこで考えました。
「石狩へ行きたい」はあったとして、同時に「石狩でなんかしてくれ」と「誰かに頼まれたのではないか」と。
頼んだ奴は誰でしょうか。
時代背景を考えたら一人しか思いつきません。
無論『秘史蝦夷往来』なるものは作者の想像ですが、ある意味説得力はあるのではないか、と思っています。
※
「彦九」の話になりますが、姿を一切見せない敵にどうやって個性を持たせるか、というのも悩みどころでした。
楽しい悩みでしたが。
敵視点で一人語りさせるテもありましたが、安直すぎてどうもヤだったんですね。
こういうとこがへそ曲がりなんですよねえ。誰でもできる方法はやりたくないという。
考えた時に頭の中にあったのは、ギャビン・ライアルの『深夜プラス1』で、死体になるまで姿を見せなかったのに、主人公たちの会話やモノローグでその個性を描きだした欧州一位二位の腕を持つガンマン、アランとベルナールのことでした。
ちょっとひねって変則技みたいにしてみましたが、まあまあうまくいったような気がします。
※
ヨメさん連れて来ちゃう、てのも突拍子もない展開みたいですが、ちょっと考えたんですよ。
黒人二人が家臣になって日本で一家を成した、てのは史実なんでそこは動かせない。
だが待てよ、と。
いくら上位下達の世の中だったからって、黒人の嫁に行け、と言われてほいほい嫁いだ殊勝な女性がそんな簡単にいたのかなあ、とか思ったんですね。
んじゃあいっそのこと連れて来ちゃえ、ということになりました。
江戸時代にハーフのヨメは無理なくね? という気もせんではないですが、誰と結婚したとしても子供はハーフという事になっちゃうので、まあヨメさんがハーフでもいいかな、と。
あとの問題はまあ黄門様がなんとかしたんじゃないかという事で・・・w
口から出まかせですけども、案外あり得る話なんじゃないかと思ったりもします。
ハッピーエンドな話になっちゃいましたけども、史実がハッピーエンドになってるから仕方ないですね。
※
最後まで読んでいただいた賢明なる皆様方にはもうとっくにお分かりの事とは思いますが、今回のお話は「自分の意志でなく連れてこられた世界で、チート能力で危機を切り抜けラスボスを倒し、ヒロインをゲットする」という、いわゆる王道(なのかな?)の『異世界転生ファンタジー』を寒山流に換骨奪胎したものでありました。
アップする直前まで、ジャンルを「その他ファンタジー」にしようかどうしようか迷ったのもそのせいです。
まあ、普通に武将に転生とかいう話がそのジャンルに入ってるんでいいのかな、とか思っております。
あらかじめよそで拙作を読んでいただいている方や時代劇が好きな方にはお分かりかと思いますが、拙作『風と夕陽と子守唄』とのカラミがあったり、
『大江戸捜査網』や『新必殺仕置人』から拝借した小ネタなども織り交ぜてありますので、お暇な方は探してみられるのも一興かと思います。
ちなみに、イリカ姉妹のファミリーネームは小松左京『見知らぬ明日』に登場した、主人公をサポートするソビエト人看護婦からいただいていたりします。
※
読んでくださった皆様、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
レビュー下さった方大感謝です。ご返信の仕方がわからないのでこちらで御礼申し上げます。
麺屋寒山、入魂の一杯。
お味はお気に召しましたでしょうか。
皆様のお口に合えば幸いに存じます。
自分にとって自分が書く「小説」というものはいわゆる昭和の「中間小説」、それもやや「大衆小説」寄りのものを指すものでありまして、基本的に「オトナのエンターテインメント」でなければならない、という一種強迫観念じみたものを持っております。
思い起こせば中学生ぐらいの頃でしたかね。
仲間内で小説のまねごとみたいなものを書き始めた頃から、その気持ちは変わっていなかったりします。
昨今の時代の趨勢からは取り残されてる感なきにしもあらずですが、これはもう身に付いちゃってるのでどうしようもないですね。
今後も機会があれば、そんなものを書いていけたらいいかな、とか思っております。
そんなわけで、今後ともご愛顧の程、よろしくお願いいたします。
乱筆乱文失礼いたしました。
どっとはらい。
アフリカ人、北を征(ゆ)く 北浦寒山 @kitaura_kanzan
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