滅茶苦茶に骨が太い、圧巻の戦記物です。
便利な魔法や奇を衒ったチートなどのない、ただただ純粋に剣と知略と政治が渦巻く、バチバチに地に足着いた戦いの記録……それがこの物語です。
始まりこそスローテンポではありますが、主人公が自身の出自を知った辺りから加速度的に運命の輪が回り始め、あっという間に謀略うごめく皇位継承戦争の渦に飲み込まれていき……ガッツリと軍を率いての戦闘が描かれるわけですね。
戦略的な軍の動きの見せ方や、各個人の戦闘での迫力もさることながら、仲間たちとの熱いやり取りも実に胸に来るものを感じます。
スラムのチームの結束力、実に心強い……!
また、戦闘ばかりではなく、謀略の交錯する宮廷内のやり取りも実に生々しさを感じさせ、人間の悪の一面によりフォーカスした描写ができているのが、物語の解像度をグッと高めています。
まさに、関わる者たちすべての思いが様々に交差し合い渦巻く、血の匂いが色濃く漂う圧巻の物語と称するにふさわしい作品です。
軟弱者たちの粗悪品に飽きた皆さん、是非とも本作品を読んで満たされてください。
本作は、王道の戦記小説として完成度の高い一作です。
まず注目すべきは、戦記ものとしての質の高さです。
戦場の緊張感、兵士や盗賊団が漂わせる生臭い気配、そして宮廷とスラム街の強烈な対比が、緻密な筆致によって立ち上がります。読者は場面ごとの空気をまるで肌で感じ取るかのように体験できるでしょう。また、戦闘が単なる力任せではなく、情報戦・交渉・駆け引きとして展開する点は、戦記というジャンルの醍醐味を的確に表現しています。
さらに特筆すべきは、文章の丁寧さです。
情景描写は緻密でありつつ冗長に陥ることなく、会話や仕草と自然に溶け合っています。そのため可読性を損なわずに、作品世界への没入感を高めています。スラム街のざらついた空気感、武人が剣を構える際の静謐な緊張感など、細部の表現からは作者の確かな力量がうかがえます。
総じて本作は、「王道でありながら大人が読んでも満足できる戦記ファンタジー」と呼ぶに相応しいでしょう。
派手な戦闘描写のみならず、背後に横たわる社会構造や人間の葛藤までをきちんと描き込み、読後に深い余韻と重みを残す一作です。
世界の大半を支配する『煌国』。その頂点に君臨する皇帝は齢七〇を迎え、一つの決断を下す。
曰く、「『皇位継承戦争(アウロベルム)』にて皇位継承者を決定する」
皇帝には五人の子があった。あるいは才知に長け、あるいは武勇に優れ、あるいは才気に富み、いずれ劣らぬ彼らがそれぞれの軍勢を率い、血で血を洗う継承戦の末に次代の皇帝を決するのだ。
否、ここにもう一人。皇帝が真に愛した侍女が産み落とした私生児、名をアインという――――
スラム街にて生まれ育ったアインは突然降って湧いた皇位継承戦争への参加権に戸惑うも、ある出来事によって決断を迫られる。どうしようもなくカッコつけたがりで楽天家、しかし意志の強さで人を惹きつけてやまない彼は親友レナードやスラムの仲間達と共に至尊の玉座を目指す!
この作品、最近流行りの最強、無双、ご都合主義といった要素とは無縁です。容赦ないほどに正規兵は強く簡単には崩れませんし、ライバルとなる他の皇子に無能者は存在せず、麾下の将兵にも猛者が揃います。烏合の衆であるアイン陣営は果たして勝ち残り、黄金の冠を戴くことができるのか?
物語は序章を終え、これより第二幕を迎えます。
打ち捨てられたスラム街から光溢れる帝都へ、薄汚れた廃墟から至尊の玉座へ、その階段は続いているのか。その道の果てに目指すものはあるのか。
虐げられし者よ剣を取れ! 灰狼騎士団に栄光あれ!!