【第一部完】次の季節へ
統合本部が混乱しようと、各地で大騒動が起ころうと、魔気無異学園は普段通りの日常だ。
そして学園であれば様々な催し物がある。直近は夏に予定されている学園祭だ。
「お料理、今なら結構できそうな気がする」
「あれ? 桜はちょっとしか料理できないって言ってなかった?」
「練習してた!」
焼きそば店をすることになっている桜のクラスだが、彼女の友人は疑問を覚えていた。
色気より食い気の桜は料理の分野が得意とは言えず、文化祭において戦力になるか微妙だった。
しかしそれは昔の話だ。
「お疲れ様。お料理の話?」
「あ、赤奈先輩! お疲れ様です! 私が練習してることを話してました!」
「そ、そうなのね」
そこへ以前のような陰鬱な雰囲気が薄まった赤奈がやって来て、桜は子犬のように駆け寄った。
「お疲れ様です先輩」
(ちょっと照れてるような感じ。こりゃデートで料理してたわね)
桜の友人は赤奈が照れたような反応を見逃さず、恋人同士がキッチンに並び立っている光景を幻視した。
だが実際のところは少々違う。
赤奈と桜の脳裏にはエプロン姿でフライパンを握る筋肉達磨を真ん中にして、新妻のように彼の左右にいる自分達の姿があった。
「そ、それじゃあ打ち合わせに行きましょうか」
「はい!」
赤奈は軽く頭を振って脳内の映像を整理し、真面目な状態に戻る。
学園祭ではキズナマキナのデモンストレーションが行われるため、打ち合わせをしなければならないのだ。
一方、真黄と心白は試作で作られたパフェの写真を撮っていた。
「いいじゃんいいじゃん!」
「ん」
「お上品なパフェの作り方なら任せなさい。なにせ私がお上品だもの」
真黄と心白は携帯端末にパフェの写真を保存すると、きちんと作った友人を称賛する。
「パフェ屋でバイトしてたとか言ってたよねー」
「これはひょっとして……産業スパイってやつだ!」
それは他の女子友達も同じで、賑やかで独特なギャルの空間が形成されていた。
「っていうか真黄と心白、久しぶりに写真撮ってない?」
「あれ? そうだっけ?」
「ん?」
ふと思い出した友人の言葉に、真黄と心白は首を傾げた。
確かに学園内で写真を撮っているのは久しぶりだが、二人のプライベートはその限りでない。
休日限定で使っているカメラには、同じキズナマキナと写っているデータだけではなく、ポージングしている墨也も撮影されている。
もし他人が知れば、何かの間違いだろうという異分子が紛れ込んでいるが、それは幼少期の写真などどこにもない真黄と心白が今作り上げている、大事なアルバムだった。
「おっと。心白、行かないと」
「了解」
そんな真黄と心白が、教室の入り口で様子を窺っている桜と赤奈を見つけて合流した。
また別の教室では、銀杏と紫が同じクラスの女子から文化祭について詳しく聞いていた。
「ファッションショーなんかあるのか?」
「へー」
「そうそう。戸鎖さんと石野目さんも出てみる?」
「パス」
「いやあ……」
ファッションショーに出てみないかと提案された銀杏と紫は即座に断った。
凛々しい銀杏と毒花として花開いている紫が参加すると、話題を搔っ攫うこと間違いなしだが、二人は全く興味がなかった。
「まあ、去年は男子生徒がメイド服。女子生徒が執事服着て出て来た、コスプレ大会みたいな感じになったとかなんとか」
クラスメイトの言葉に、銀杏は執事服、紫はメイド服を着こみ、アパートの一室で給仕する自分達を想像してしまう。
「それで最終的にボディビルの大会みたいになって、無茶苦茶になったとかなんとか」
「ふーん」
「そうなんだ」
続けられたこと説明に対し、銀杏と紫はそんなこともあるんだなという反応を示すだけだ。
流石は古くから練り上げられた血統の末裔。
心の中でボディービル大会という単語をチェックし、後日に話そうと決めたことなど全く表に出さない。
「あ、銀杏ちゃん」
「おう」
そんな銀杏と紫も、教室の入り口にいる仲間達に気が付いて合流する。
「歌川さーん。応援してるよー!」
「ありがとー!」
学園の広場にいた碧が、通りがかる生徒達に声援を送られて応える。
「ある意味サプライズ出演かな?」
「あはは。そう言われたらそうかも」
青蘭が余裕のある笑みを浮かべてサプライズ出演と表現する。
本来の予定なら学園祭当日の碧は撮影の予定があり、ほぼいることができなかった。しかし、個人での芸能活動に場を移したことで学園祭に参加する余裕が生まれ、急遽ながら歌を披露することになったのだ。
なお余談だが、小人数しか聞いていないライブは現在も開催されており、墨也の部屋は最も贅沢なステージと化している。
「ジムの方はどんな感じ?」
「機材は新しいし、プールの方も泳ぎやすくてかなりいいよ。資料を幾つか持ってるから、気になるなら見るといい」
今度は碧が青蘭に尋ねる。
会員制でかなり新しいジムに通い始めた青蘭は資料を持ち帰っていたが、墨也が当然のように即食いついた。
それはもう、釣り糸がたらされた瞬間に食いついた魚同然。青蘭とも色々な話で盛り上がったものの、あまりにも分かりやす過ぎる男というほかない。
「おっと、そろそろ時間っぽいかな」
「そうだね。打ち合わせしないと」
ふと時間を気にした青蘭が、そろそろ打ち合わせの時間だと気が付き、碧も同意して歩き出す。
そして部屋の一室で咲き誇る花々。
「それじゃあ始めましょう……少し涼しくなってからにしましょうか」
「はい赤奈先輩!」
赤奈も桜も。
「もう夏だねー」
「言えてる」
真黄も心白も。
「部屋の温度は……」
「もうクーラーの時期かあ」
銀杏も紫も。
「こういう時は水着だよマイハニー」
「海ならね」
青蘭も碧も。
気温を受けてか生命力で輝いている。
夏がやって来ていた。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
「ここは胃ですねー」
そして墨也は変わらず客に地獄を見せていた。
◆
あとがき
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!
区切りがついたので、一旦ですが第一部完ということにさせていただきます!
次再開するときは文化祭&筋肉水着回で、日常的なイチャイチャがメインになると思います!
重ねてになりますが本当にありがとうございました!
【第一部完】絶対負けないキズナマキナ! ─闇落ちなんかしない! 愛する人との絆は絶対壊されないんだから! とか言ってた少女達は男を絆の間に挟み込むことに─ 福朗 @fukuiti
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