藤次とゆき
ナカムラ
藤次とゆき
トン テン カン
トン テン カン
江戸時代、文久3年。
今日も、刀鍛冶をしているアタシの旦那、藤次(とうじ)が刃を小鎚で打ち叩く小気味良い音が辺りに響いていた。
アタシの名は、ゆき。
「かかあ、かかあ、すまんが来てくれい!」
アタシは、なぜ呼ばれたか、阿吽の呼吸でわかっていた。
「あいな」
藤次の周りは、刃を入れる火のために熱風がつきまとっていた。
アタシは、木桶に張られた水に手ぬぐいを浸した。
「もう、休んだらどうだい。倒れちまうよ」
「そういうわけには、いかねえよ」
旦那は、上半身裸で汗だくだ。
アタシは、首筋に、冷たい手ぬぐいを当ててやった。
「すまねえなぁ」
「構わないさ。それより、早く休むんだよ。体壊れちまうよ」
「わかってらー」
アタシは、心の奥底で、藤次の姿を見て思っていた。
おっこちきる (ぞっこん惚れる)
了
藤次とゆき ナカムラ @nakamuramitsue
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