第78話 小説構文の鍛え方
小説構文の鍛え方
小説を書くときに「どう書いていいのか」「なにを書かなければならないのか」についてはさまざまな意見があります。
「小説の書き方」を記した書籍を数多く読み込んできた私でも、「これは」と思えるような文章読本には出会えませんでした。
しかし、まったくなにもないところから、「小説の文章」を身につける方法を発見しました。
これはまだ自身で検証している段階ですが、ある程度の有用性はあると思いますので、コラムを一本書きたいと思います。
小説構文とは
小説構文とは「小説の文において書くべきこと」を確実に書いて読み手に文意を伝えるための文の構造のことです。(私が定義しました)。
例文では、誰もが知っている文章をひとつ用いて考えてみます。
川端康成氏『雪国』ですね。
名文を用意する
まず、あなたが「この作品は名文だ」と思える小説を探してください。
たいていの場合、あなたが小説を書こうと思い立ったきっかけとなった作品が名文であることが多い。
すぐに思い浮かばない方は、『カクヨム』などの小説投稿サイトでトップランカーの作品を手本にするとよいでしょう。
読むのに苦労するような作品がトップランカーになることはまずありませんので。
名文の分解
お手本となる小説が用意できたら、それを書き出しから順に分解していきます。
『雪国』の書き出しといえば、
◎「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
ですよね。
これをまず「名詞」と「動詞」と「その他の品詞」に分けます。
例文では「国境」「トンネル」「雪国」が名詞、「抜ける」が動詞、「長い」がその他の品詞です。もし「その他の品詞」が述語になる場合はそれも抜き出しておきます。
文末表現はこの段階ではそれほど重視しなくてかまいません。(文末の「であった。」は動詞「ある。」というよりも名詞の定義形「だ。」の変形と見たほうが正確です)。
名文の構築
分解した品詞を検討してみます。
「国境」は「トンネル」の修飾語なのでいったん省きます。(「その他の品詞」もほとんどが修飾語です)。
「トンネル」「雪国」と「抜ける」だけが残ります。
ではこの三語だけ用いて文に仕立ててみてください。
どのような使い方をしてもかまいません。
原文にとらわれなくてよいのです。
(1)「雪国はトンネルを抜けたところにある。」
これは原文とは異なる語順ですよね。
出来あがったらそこに「その他の品詞」を加えていきます。
(2)「雪国は国境を越えるトンネルを抜けたところにある。」
「国境の」は本来「トンネル」の連体修飾語ですが、構文するときの意図は原文に囚われないほうが身につきやすいので、自由に使いましょう。
残るは「長い」ですが形容詞の連体形として考えれば、「雪国」が長いのか「国境」が長いのか「トンネル」が長いのかになります。連用形であれば「長く抜ける」ということになります。
この四つの中から文としておかしくないものはふたつです。
「トンネルが長い」「長く抜ける」ですね。国境が長いとなると中国とロシア、アメリカとカナダの国境が想定されると思います。まあそもそも「国境」を「こっきょう」と読むか「くにざかい」と読むかは説が分かれるところですが。
「トンネルが長い」の「長い」は「トンネル」の修飾語なので「長いトンネル」と表現すればいいですね。
(3)「雪国は国境を越える長いトンネルを抜けたところにある。」
ということになります。
ちなみに「長く抜ける」を用いると、
(4)「雪国は国境を越えるトンネルを長く抜けたところにある。」
となります。
名文との比較(答え合わせ)
では答え合わせをしていきましょう。
元の名文は、
◎「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
でした。
私が分解してそれっぽいニュアンスで作ったのが、
(3)「雪国は国境を越える長いトンネルを抜けたところにある。」
でした。
こうやって比べると、伝えたいことがズレていることがわかると思います。
川端康成氏の名文は主語がなく、動作「抜ける」の先に「雪国」が出てくる。つまりこの一文だけで雪のない土地から雪深い土地へとやってきたことが一目瞭然です。
では私が分解再構成した文はどうでしょうか。
これは「雪国」の説明をしているに過ぎません。
そもそも「雪国は」は文末の「ある」に係り受けしますから、語順を入れ替えても意味はさほど変わりません。
(5)「国境を越える長いトンネルを抜けたところに雪国はある。」
こうすると名文に近いですが、やはり雪国について説明している文であることに変わりありません。
ではなぜ雪国の説明文を作ってしまったのでしょうか。
「トンネル」「雪国」「抜ける」の三語から文を作ろうとすると、どうしても説明文にせざるをえないのです。
あなたが作った名文の再構成も、説明文になってしませんか。
もともとの名文が説明文であればラッキーです。分解再構成した文は説明文になりやすいため、まったく同じ文が完成することもありうるからです。
では川端康成氏はなぜ書き出しを「雪国」の説明文にしなかったのでしょうか。
読み手に「はい、そうですか」と思われないためだと考えられます。
「はい、そうですか」と思われたら、それ以上読む動機が浮かばないからです。
(5)「国境を越える長いトンネルを抜けたところに雪国はある。」
これを説明文から描写文に変えるコツを身につければ、あなたは小説構文を手に入れられます。
(6)「国境に跨がる長いトンネルを抜けたら雪国に出た。」
どうでしょうか。動詞「を越える」を「に跨がる」変えて、文末も「雪国はある。」ではなく「雪国に出た。」に変えました。
名文からはまだまだ離れていますが、なにも名文と100%同じ文が書けなくてもいいのです。これは「名文養成ギプス」。もし書けたら「シン川端康成」が誕生するだけ。あなたが著者である必要もなくなります。
名文とは違っていても、きちんと伝えたい情報を伝えられているかどうか。
説明文ではなく描写文になっているか。
川端康成氏の原文に近づけるなら、
(7)「国境に跨がる長いトンネルを抜けたら雪国であった。」
とすればよいでしょう。
使っている材料のほとんどが同じ(「跨がる」が追加されたくらい)でも、書き手固有の小説構文になっていますよね。
その他の品詞は思いつかないものだらけ?
「その他の品詞」にはその文をどう装飾するか、その意図が書かれています。
そして文章力を左右するのがこの「その他の品詞」のバリエーションです。
どんな修飾語で表現を豊かにしているのか。
その力量が「その他の品詞」の単語で如実に表れます。
小説構文がどのようなものか理解できたら、「その他の品詞」に注意して読み進め、場合によっては分解再構成して使いこなせるようになりましょう。
どの品詞のなんという単語が使われてるかで、文章表現の多様化の勉強にもなります。
構文の筋トレ「名文養成ギプス」が効果を発揮するには、さまざまなシーンで名文を分解再構成するところにあります。
私は、執筆前に取り組んでみようと考えております。
文章力に自信がない方は、何回か挑戦してみてはいかがでしょうか。
新・小説の書き方コラム〜小説の文章に変革するための挑戦 カイ.智水 @sstmix
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