華薫華の男たち 4
確かにその目で見たはずの入り口はどこにも無くそこには壁があるだけだ。
入室したはずのマニエ人が壁の向こうで何をさせられているのか気になるが、嗜好という意味では悪いことではなさそうだと思う。
その一方で悪の巣窟とされるこの国の人類は
ここは悪する国である事に間違いないのだ。
突如に現れた男に剣を突きつけられた時にはまさにガイト国だと恐怖を感じたが、今こうして
前方を歩く二人が壁の前で立ち止まり
辺りを見回せば淡黄色の壁はいつのまにか茶褐色に変色している。ドーム内に映し出された樹木の幹の色合いによく似ていると思い、つい触れてしまった。
【ひゃー!くすぐったいよ】
思わず手を引っ込めた。
「やめろ……ヒコナツ!」
【いいじゃない。チエ、もっと触って】
困った顔をするチエをみて
「気にしなくていいぞ。ヒコナツ、ふざけてないで、早くここを開けろ」
【ふざけてないし、早く開けろって誰に命令してるの「開けてくださいお願いします」って言ってくれないと開けないよ】
自分の声を聴かされた
「
空気の読めない
「お願いします」
と恥ずかしそうに小さな声で呟いた。二人はチエをまじまじと見下ろしている。
「ごめんなさい。パルを抱えているマインさんの腕が疲れると思って」
マインは腕に抱えるパルに視線を落とすがたいして何も感じていない。
「……気遣いは無用です。この男は思いの外軽いんで大した事はありません」
労りの言葉を受けたマインはチエの優しさに感動し思わず微笑むチエの表情を真似てみた。
頬の筋肉がぴくぴくと引き攣り懸命に口角を上げようとするのだが笑い顔が上手くできない。
どんなに頰筋を動かそうとしてもその顔はチエに噛みつこうとする猛獣のようでチエは思わず
「お前……なんだその顔!チエが怖がってるだろ。顔を元に戻せ!」
【マイン、君に笑顔は無理だよ。鍛錬しなきゃできないと思うね。
「うるさい!開けろと言ったら開けろ!」
【ほんと、
目の前の壁に小さな穴が出現し高速回転しニ秒とかからず楕円形へと変形し壁の向こう側の通路と繋がった。
マインが開いた壁を通り抜けると
「どうかしましたか」
と
「……壁に戻った」
「はい、いつものことです」
あっけらかんと応えた
「
「チエが見るから」
「
「なぜだ。マイン、
「お前、立場を
「立場……って」
「チエ様は……彪様と同等の方だ!」
「……」
「私はチエで構わないわ」
と微笑むと、
「ほんと!じゃあチエって呼ぶ、マイン、許可を得たらいいんだろう」
と肩を上下に揺らし言った。高揚しているが微笑むことのできない表情は硬いままだ。
「そういう問題じゃない!」
いきなりマインの足が腹に喰いこみ、足蹴にされた
「あっ!」
飛んで行った
「ヒコナツ、
【了〜解】
倒れ込む
茫然と立ち尽くすチエの
「仕置きだよ。気にすることはない」
「仕置き……仕置きってなにに対しての仕置きですか!なにも悪いことなんてしてないわ」
『転送で済んだだけマシだ』
マインは心の中で呟き表情をくもらせた。
「チエ、気にするな」
「気にします!」
チエは自身の怒りに戸惑いながらその憤慨した気持ちを抑えることができない。怒りに身体が震えてしまう。震えを鎮めようと両手で自分の腕を抱きしめた。
「怒ってるのか?なぜ
「……視線に……そうね。とても重くて吸い込まれるような。背景に宇宙空間のブラックホールが見えたような……」
「
「なんだ」
「宇宙空間とはなんです。ブラックホールとは」
「知らん、俺に訊くな!」
「そうですか、
互いに目を細めて見合った。
「ブラックホールとは、宇宙空間に存在する天体のひとつなの、高密度で強い重力のため物質だけでなく光さえ脱出で」
「チエ!」
「……」
学んできた知識のひとつを説明をしている途中で遮られた。二人の顔を見上げると眉は寄って口はあんぐりと開いたままである。
「……」
黙ったチエの口元から手を避けた。
「すまない……チエ、チエの言ってることは俺たちには到底理解できないんだ。なんというか、言ってる事が全くわからない。その訳のわからない単語は俺たちの脳内に侵入すると混乱を起こす。すまないな」
「ごめんなさい」
発言する単語に混乱すると言われたチエの脳内ではその混乱の意味を理解しようと解きほぐしている。
「謝らなくてもいい、それよりも
「思考の停止をさせる……生まれ持っての才能」
「才能と言うべきか、俺は不要なものだと思う……ここにはそういった際を備えている者達が多くいる。不要なものをな。
「本人は気づいていませんがね」
マインは眉をひそめ頷いた。
「本人は知らないのですか」
「知らぬというより何度、説明しても理解ができない。だからいつもこのマインと共に行動させてるんだ。マインだけがあいつを抑圧できる。無論、俺にも可能だが、常時、共にいるわけにもいかない、だから以後、あいつに見られても決して目を見返さないでくれ」
「はい……彼はどこへ行ったの」
【チエ】
「はい」
【自分の部屋だよ。心配しないで】
「そう、自分の部屋……」
ヒコナツの言葉に安堵したチエはひとつ息をつくと安心したように微笑んだ。
しかし、ヒコナツに届くチエの心拍数が異常値を示している。懸念したヒコナツは泰斗の研究室へと
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