華薫華の男たち 2
鼻先から赤い血液が滲み出てきた。一瞬何が起きたのか剣を振りかざした男でさえもわからなかった。
パルは目を真ん中に寄せ自分の鼻先に刺さる剣の先に気づいた瞬間、両手を激しく振りながら、
「あわわわわ、チエ様〜」
激しく取り乱し助けを求めた。
求められたチエも驚愕し「きゃー!」と両手を口に覆い悲鳴をあげる。
「パルさん!」
マリモから駆け出て背後に近づいた瞬間に目を閉じ硬直したパルの身体はディエンツの腕の中に倒れ込んだ。それを全身で支え、抱き抱えたまま地に膝をつき心配そうに顔を見つめている。寄り添うチエは意識を戻させようと頰を叩き、
「パルしっかりして、パル!」
「パルさん……大丈夫ですか……なんてひどい事を……」
ディエンツは鼻を覆うパルの手を握りしめ反射眼鏡の下から男を見上げた。
「なんだ!お前は俺を見てるのか、たかがドーム警備隊の分際で!」
ディエンツの睨んでいる目は見えないものの噛み締める唇を見れば
「なにをしてるんだ!」
「
「そんなに目をむいて怒るなよ。ちょっと手元が狂っただけだろ」
と短髪の頭をくしゃくしゃと掻きむしった。
「狂っただけだと、まったく!大丈夫ですか」
男は鼻を覆うパルの手を避け傷口を確認した『あっ……』その時チエは男の素早い対応をまじろぎもせず見ていた。
「あっパルの傷が……」
パルの掌には微量の血痕が付着しているが鼻筋には
「えっ……あっ……」
チエの瞳に
「貴方が出血を止めてくれたの」
「えっ……あの、と……と……とりあえずよかった。大した傷ではなくて、本当に申し訳ない事を……しました」
色白で白いワンピースを身につけた姿のチエの瞳は艶やかで潤い一層際立っている。さりげなくちらりと見やると剣を掲げる男に振り返って叫んだ。
「豪!お前は
「はいはい、わかりました。お前ら行くぞ!ちょっと手元が狂っただけなのにな〜」
剣を鞘にしまって悪ぶれる事もなく配下の五人と談笑しながら華薫華へと戻って行った。
「順次、入館してもらってくれ」
「はい!」
配下の二人が人類に向かって動作で
自分のことを凝視しているチエの目が視界に入る。チエをみたいという欲求に駆り立てられるが視線を合わせてしまえば心が囚われてしまうと客観的に分析し、視線を合わせないように敢えて少し俯き加減で向き合った。
「初めまして、chie5、本当に申し訳ない事を……しました。来館初日だというのにこんな目に合わせてしまって、あの者には常に注意をしているんだ。でも見ての通りの性質で抑制のコントロールが効かなくて困ってる次第で、決して悪い奴では……ありませんので、許してやってく……ださい。マイン、彼を救護室へ運んでくれ」
「はい!」
マインと呼ばれた男が駆け寄って来てパルを軽々と抱き抱えた。チエは同時に立ち上がりマインの顔をまじまじと見つめる。
『190zent、強腕で彼の力に勝る者はいない。ここにいる人の
チエはぐっと目を閉じた。脳内で明らかに意識に反して声が聞こえてくる。
「chie5……どうか……なさいましたか」
男の声に目を開き顔を見上げるも男はチエからサッと目を逸らした。
「
もう一人の男はこくりと頷き先に歩き出しその後にパルを担いだマインがついて行く、
「さぁ、chie5、君は警備隊員のディエンツ」
「はい」
「コンタクで待機せよ」
「はい!」
敬礼をし一礼したディエンツはマリモの中に乗り込んでそっと男の様子を伺った。
「さあ、チエ」
「どうかしました。chie5」
「あの……その呼び方、私のことをchie5というのをやめていただけませんか、チエと呼んでください。それと……」
「それと……」
男は言葉を発する度に詰まらせる。普段使わない敬語はいざという時に正しく使うことができないようだ。
一応、チエに対しての言葉遣いに気を配っていらつもりであるが既にボロが出てしまっている。
「あの、私のことを見てくださいませんか、先ほどから全然見てくれないのはどうして」
互いの目を見て会話をすることが当たり前のチエにとって男の挙動は不自然だった。
「あっ……失礼……しました。その、別にチエを見ていないわけではなくて……その、なんと言えば良いのか、あまり気にしないでくれ、自己紹介がまだだったな。私は
立ち止まって差し出す手にチエは戸惑いながらも手を絡めて
「あの……こっちを見て……」
「あの……パルは大丈夫でしょうか」
男系と握り合う自分の手を見つめていると心にふと温かな気持ちが芽生える。
「はい、彼は気を失っているだけなので、時が経てば意識は戻るだ……ります」
「気を失った……パルは個体システムなの、フリーズしたというならわかるんですけど」
「チエはそのように教育されてんだな。そう思うのも無理はない……のでしょう。しかし、彼はシステムではなく貴女の
「さっきの方もそんな事言ってたけれど、私の
と微笑んだ。
「ルイ・ジェット……ですか」
「ご存知ですか、彼のこと」
「……さぁ、詳しくは知らないんだ。さあ、ここが
広い間口を紹介するように手を動かした。
【ようこそ chie5 お待ちしておりました 本日は思う存分楽しんでください】
「声の主は門番のヒコナツ」
「門番……ヒコナツ……どこを見れば良いのかしら……」
【こちらです】
と声のする方見るけれど
「楽しまなきゃって思うけどパルが心配で楽しめそうにないの」
【彼は大丈夫 心配無用、今から8分後には目を覚まします】
「今から、8分後……」
「チエ、パルは必ず8分後に目を覚ます。ヒコナツが言うから間違いない。安心を……」
チエの背中に手を添わせながら優しく微笑んだ。エスコートされる心地よさを感じたチエだが
「どうかし……なさいましたか」
「いえ……『ヒコナツってどこにいるんだろう……だけど思っていた以上に進化を遂げてる。ファイルにはこんな事全く記載されてなかったものね。不思議だけど嫌な感じが全然しないの、この目でしっかりと確かめなければならないことが沢山あるみたい』」
前を歩くマインのブーツにも隣を歩く
それを見つめる好奇心に満ちたチエの目を
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