ドーム17

【チエ様、警備隊がやってきます。今すぐ、カプセルの中に入ってください】


 チエはアルの言う通り慌ててカプセルの中に入って目を閉じて眠っている振りをした。


 パルもチエのカプセルベッド横のパル専用ベットに横になりをクドーゼを差し込み、まるで充電中であるかのように偽装している。


 ドームの入り口の自動ドアが開くと五体の警備隊員が駆け込んできた。そのうち一体が、


「ドーム001アル、chie5どこだ!」


 横柄な声を荒がいながら許可なく無菌室に入室して行こうとしたが、自動扉は開閉しない。


「ドーム001アル、今すぐここを開けろ!」


 アルが突如、人型ひとがたの姿で警備隊員の前に現れた。

 初めて見せたアルの正体しょうたいは青い目の銀色の長髪、スマートな体型の男系である。


【そこは無菌室、開閉不可能、雑菌保持者は入室不可、許可しない。どの様な用件だ。ここがドーム001と理解して突入しているのか、直ちにドーム001から退去しろ!今のは注意。次は警告、その次は防御の体制を取る】


「こちらは本部の命令でここへ来ている。001アル直ちにchie5を出頭させろ」


【チエ様がなにをした。私の所に勧告メッセージなど届いていない、即刻退去しろ!次は防御体制、排除システムon】


 警備隊員は前進の意思を見せた。

 アルは攻撃体制に入り五体の警備隊員を破壊するため妨害電波を発動し停止させ、ショートさせて芯の髄を抜き取り本体を木っ端微塵に砕き空気清浄機が吸引し排除した。


 無菌室からはチエとパルが並んで見物している。


 無菌室の自動扉が開くと同時にパルはアルに駆け寄り指先を伸ばし触れると突き抜けた。


「あら、肉体はないのですね。わたくしのように生身ではないようです。残念ですね。けれども、貴方も意外とイケメンです。わたくし程ではありませんが、それよも処分してしまうなんて性急過ぎやしませんか、一人残して自白させなくてはなりませんでしょ」


 パルとアルの二人の背丈は同じで年齢も同齢であり、雰囲気もとてもよく似ている。


【パル、その顔を近づけないでくれ】


「なぜです?」


【男系同士、気持ち悪いだろ】


「気持ち……悪いって、なんて事を……」


「初めまして、アル、イメージとは全然違うのね」


 チエは穏やかな微笑みで優しく語りかける。


【チエ様のイメージする私はどのようなモノでしたか?】


 二人が仲睦まじく見つめ合う姿を見て、


「なんですか!その豹変ぶりは、ころりと態度を変えて、私には怖い顔して顔を近づけるなと言っておきながら、その笑顔、ああ、わかりました!アルは私をライバル視してるのですね」


 チエは呆れてため息をついた。アルの胸元に手を伸ばす。


「もっと、その、なんていうか、インテリみたいな。厳しい人だと思ってたわ、とても爽やかだから驚いた。アルにも形があれば……素敵よね。触れられると良いのに」


【はい、チエ様】


「爽やか……ですか」


 パルは皮肉めいた笑みを浮かべ、チエを挟んでアルと対峙する。


【チエ様、爽やかとはありがとうございます。それよりも、あの警備隊員は本部のテイラル型ではありません】


「どういうこと?」


【芯の髄を抜き取りましたが髄の周波数が違います。マニエ警備隊ではないテイラル型の模造だと思われます。チエ様は出頭する様な事はなにもなさってはおりませんから】


「模造ということは何処から来たの?誰の指示でここへ来たのかしら」


 真剣に考え悩むチエの前を行ったり来たりして気を引こうとするパルに、


「さっきからアルの中を行ったり来たりするのやめなさい」


「なぜです。所詮形はないのですから」


 と、目をきらりとして見せた。


「最近貴方の目がきらりと光るのよね。どうしてキラキラ光らせる必要があるの」


「イケメンですから、仕方のないことなのですよ」


「私が真面目に考え事をしているのに貴方はいつもそんな感じ、因みに、イケメンって調べて見たの、だけど、パルみたいなそんな顔を表現してなかったわ」


「そんな顔とは、ひどい!わたくし程イケメンに適している男形は居ませんよ」


 チエはパルの右側の腰を指差した。パルは自分の腰に目を向けて、


「どこがイケメンなのかしら、そんなのぶら下げて」


「あらら、くっついて来たのですか、イケメンの私から離れたくないのでしょう」


 グドーゼが垂れ下がって揺れている。なんとも間抜けなパルはにやりと微笑みズボンのポケットの中に押し込んだ。


「本部のテイラル型ではないなら何者なのでしょうね。アル、芯の髄の詳しい解析をしなくてはなりませんね」


 パルは首をロボットの様に動かす。


「ふざけてばかりね。もう!」


【チエ様はなにをお考えですか】


 チエはソファに座りモニターを見つめる。アルはスイッチオンにし、小川のせせらぎを流した。 


「アル、私の事はシカトですか?」


「ねえパル、少し黙ってて、それにシカトってどこの言葉なの、最近、変わった言葉ばかり使ってるわね」


「そうですか?過去のファイルを開くと沢山の言語の研究がなされてまして、それを目視していましたら、わりとすんなりと記憶できるのですよ。だから面白くて」


「ためになるものを閲覧しなさい。パルと話をしていたら大事な話がなんだったかわからなくなっちゃう。黙ってて!」


「はい……」


 落ち込んで項垂れるパルを他所に、


「あと一年、あと一年の辛抱……」


 と自分に言い聞かせるチエにパルは、


「辛抱などと、また、古風な言い方を持ち出されましたね」


 とボソボソ小さな声で呟く、


【チエ様、残り一年の辛抱です。チエ様、よく、ここまで辛抱なされました】


「ねえ、アル、ひとつ訊きたいことがあるの」


【はい、チエ様、なんなりと】


「この二年、ルイはどうしたの、わたしアルのプログラムの中にひとつだけどうしても見る事ができないファイルがあるの、それをどうしても閲覧したいのよ。そのファイルがある事、知ってる?」


【もちろんです。しかしルイ・ジェットにしかそこを開く事はできません】


「ルイに会いたい……」


【チエ様、元気を出してください。私には詳しい事はわかりませんが、もしかしたらルイ・ジェットは消去された可能性が高いかと思われます】


「消去……どうしてそう思うの」


【ルイ・ジェットの気配が感じられませんし、それに彼は管理システムのマザーヘッドです。にも関わらず、ドーム002の少年を管理しきれていなかった事の責任を負わされたのではないかと、キング・イアは冷酷無慈悲だと聞いております。私はずっとこの二年思っていました。あのルイ・ジェットがチエ様から黙って離れる分けがございませんから、なにがあったのか……】


「ルイ……」


 チエは自分の出生の意図を探ることができるのはルイの存在が欠かせないと考えている。


 このドームから自由を得る事で自分の在り方が見つけられる。自分が一体何者なのか、

まもなくチエが始動する。

 



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